1 債権差押えの基本の「キ」

 債権回収の方法のひとつに「債権の差押え」があります。

 差押えというと、素人の方には、不動産の差押えがピントくると思いますが、債務者が第三者に対して持っている債権も差し押さえることができます。

 債権には様々な種類がありますので、差押えるために必要な事柄は債権によって異なりますが、債権の種類による差押え方法は別の機会に譲るとして、今回は、債権の差押え全般に共通することを簡単にお話ししたいと思います。まさに、債権の差押えの基本の「キ」です。

2 債権差押えの基本構造

 例えば、XがYに100万円の債権を持っているとします。しかし、XがYに100万円を支払うように請求してもYは支払ってくれません。

 そこで、調査したところ、YがZに対して100万円の債権を持っていることが判明しました。どうやら、この100万円はまだYに支払われていないようです。
 図解すると次の通りです。

 X  →  Y  →  Z
債権者   債務者  第三債務者
  100万円  100万円

 このような場合、Xとしては、Yが支払ってくれないので、YがZに対して有している債権を差し押さえることができます。
 ここでは、Xを債権者、Yを債務者、Zを第三債務者と呼びます。
 Y・Zの関係では、Yが債権者でZは債務者ですが、そのように呼ぶと混乱するので、Xを中心に考えて、Yを債務者、Zを第三債務者と呼び分けることになっています。

 債権を差し押さえたからといって、自動的に100万円を回収できるわけではありません。
 XがYのZに対する債権を差し押さえると、これまでXはYにしか100万円を請求できなかったのに、Yを飛び越してZに直接「100万円を支払え」と請求できるようになります。
 債権の差押えでできることはここまでです。もしZが支払ってくれなければ、XY間の紛争が、今度はXZ間の紛争になるだけです。
 したがって、もしZが任意に支払ってくれない場合には、Zに対して「取立訴訟」を提起しなければなりません。

3 債権差押えの法律効果

 では、債権を差し押さえたにもかかわらず、ZがYに支払ってしまったらどうなるのでしょうか。Zから見れば、債権が差し押さえられたとしても、Yが本来の債権者です。
 Zとしては、Yに支払ってしまったので、Xに重ねて支払うことに抵抗するはずです。でないと、Zは合計200万円支払う羽目になりますから。

 しかし、差押命令が第三債務者であるZに送達されると、「弁済禁止効」が生じます。要するに、YのZに対する債権がXに差し押さえられてしまった以上、ZはYに弁済してはならないという効果が生じるのです。  では、そのような弁済禁止効が生じたにもかかわらず、ZがYに支払ってしまった場合はどうなるのでしょうか。
 その場合には、Xは、YがZに100万円支払ったとしても、弁済禁止効が生じている以上、Zに対して100万円の請求を求めることができます。
 したがって、Zが二重払いの危険を負担することになります。

 ところで、注意しなければならないのは、この弁済禁止効は裁判所が差押命令を出しただけでは生じないという点です。あくまでも、差押命令が第三債務者であるZに送達されなければなりません。
 そうしないと、差押えを知らないZに二重払いの危険を負わせることになり、Zに酷だからです。
 したがって、せっかく債権を差し押さえても、差押命令がZに送達される前にZがYに支払ってしまうと、Xとしては、Zに100万円支払うように請求することができなくなってしまいます。実際に、そのようなケースは珍しくありません。その意味では、債権の差押えは時間との勝負ともいえます。