今回は、特許庁が2000年に発表した、ビジネスモデル特許の具体的な審査基準についてその骨子をご紹介します。
実際にビジネス手法やビジネスモデルを特許化する際にご参考いただければと思います。
なお、特許庁は、米国特許商標庁、欧州特許庁とも歩調を合わせ、日米欧のビジネスモデル特許の審査基準のすりあわせを行っています。(ただし、欧州は現在進めている「欧州特許条約」の改正に注力しているため、すりあわせは主に日米を中心に行われました)
2000年に行われた会議では、主に次のような仮想事例において、どのように審査するかが検討されました。
① インターネットで商品を購入した場合に発生する特典である「ポイント」を他社に譲る方法に特許を認めるかについては、日米の審査結果には大きな差異は見られず、日米ともにビジネスモデル特許に対する審査基準に大差ないことが確認されました。
② コンピュータによって実現されるビジネス方法に特許性が認められるためには、「技術的側面」が必要、人間が行っている公知のビジネス方法を単に自動化しただけでは特許性がない、という2点でも考えが一致しました。ただし、1点目の「技術的側面」については、どの程度の水準が必要なのかということに関しては、考えが一致しなかったようです。(たとえば、日本では「技術的思想の創作」、米国では「technological arts」と「practical application」が見られれば特許性が認められるなど)
これらの事例研究を通じて、たとえば、日本における審査基準について以下のようにまとめることが出来るかと思われます。
1 特許対象の発明かどうかの審査基準
IT技術などを利用していないビジネス手法のみの場合には、特許を認めにくいとされます。たとえば、「商品の売価決定方法」や「パーティーの開催方法」は、それ自体では全体が人為的な取り決めであり、自然法則を利用した発明には該当しません。ただし、「商品の売価決定方法」や「パーティーの開催方法」にハードウェア資源を利用して、一定の処理をハードウェア上でおこなう場合には、全体として自然法則を利用した発明に該当します。
2 進歩性(同業者が容易に考えつくかどうか)の審査基準
① 関連ビジネス分野の常識とコンピューター技術分野の常識の双方を兼ね備えた者が、公知の手段・方法を組み合わせる等により容易に思いつく分野に関しては、進歩性を認めない。
② 基本的に特許が認められない具体的事例を例示しました。たとえば、他分野への単なる応用(公知の「ファイル検索システム」を医療分野へ応用して「医療情報検索システム」などを創作する場合)、単純業務の効率化・システム化(ファックスや電話等での注文をネット上のホームページで受け付けられるようにした場合)や小幅な機能の追加(インターネットショッピングで申し込んだ顧客にお礼のメッセージが自動的に送信される仕組みや、インターネットショッピングでクーリングオフ制度の機能を付加する場合)などは、この基本的事例にあたります。
③ ビジネスモデル特許の進歩性の審査では、「ビジネス手法」と「実現するために使用する技術」の2つが従来から審査の対象となっていましたが、「ビジネス手法」あるいは「使用する技術」のいずれかについて進歩性が認められれば特許を認めるとしました。
また、今後も特許庁のデータベースの充実・強化を続けること、最新の国際特許分類(IPC7版)をベースに産業別・業務別の観点から再分類を行い、出願人による先行事例検索を含む調査の利便性の向上を目指すことも確認されました。
では、自社のビジネス手法やビジネスモデルを特許化する場合に、どんな点に留意すべきでしょうか。 特にインターネットビジネスを開始・運営する際には、一般的に以下の点に留意すべきです。
(1) 専門家(弁護士、弁理士、専門コンサルタント)への事前相談 (2) 特許、インターネット技術、インターネットビジネスの3つの分野において日米の事情に通じた専門家からアドバイスを受けること (3) 他社のビジネスモデル特許に関する情報の収集とデザインアウト(特許侵害の回避)
具体的に特許を申請するに当たっては、できれば日米欧など世界主要市場において同時に申請をすることが望ましいです。