世間の耳目を集める事件で、弁護士が取材に応じる様子が報道されるケースが最近多くなってきたように思います。
近々では、インターネットでのなりすまし事件で弁護人が記者会見した様子が話題になりましたし、STAP細胞の研究不正疑惑でも、代理人の弁護士を頻繁にテレビで見かけました。
私自身、記者会見に出たこともありますし、判決直後に新聞記者から突撃取材を受けたこともあります。もっとも、そのような取材のたびに、記者からの質問にどう答えるか、対応に苦慮することが少なくありません。

このことは、刑事事件で特に顕著な問題となって弁護士に立ちはだかります。

刑事事件は、猟奇的であったり残虐であったりすることが少なくないため、一般に民事事件よりも記事性が高く、ゴシップネタとして扱われがちです。その分、記者たちも、事件が特殊であればあるほど、特ダネを探すためにこぞって取材を行います。性犯罪や家族間のトラブルなどであれば、その傾向はより強いように思います。

弁護人は、被告人の事情を最もよく知る人物の一人。情状弁護を尽くして処断刑の軽減を求める弁護人は、事件の全容を把握し主張することが活動の主目的である検察官以上に、被告人のパーソナルでプライベートなことがらについても知り尽くしていることが多いです。そのため、記者の質問に対して、明確な答えを持っている場合も稀ではありません。被告人がどのような罪を犯したのか、真の動機は何であったのか、背景事情としての家族環境はどのようなもので、奥さんとの関係がどうで、接見のときは何を話していて、どのような考えを有しているのか・・・。話せば記者が大喜びしそうな事情をたくさん知っています。

でも普通は何も語りません。

弁護人が知っているそれらの事情は、弁護人が被告人と信頼関係を築き上げ、被告人が「この弁護士さんになら」と信じて話してくれたことばかりだからです。
弁護士が不用意に漏らしてしまった一言で、被告人の信頼を全て失うこともあり得ます。そもそも、弁護士という職業が、クライアントのコンフィデンシャルなことがらを扱うものである以上、よほどの事情がなければ、知り得た情報を他者に伝えることがあってはならないものなのです。

冒頭に挙げた2つの例で、弁護士が敢えてカメラの前で口を開いたのは、巷間の報道が過熱しており、事実と異なった認識が広まっていくことに当事者が危機感を覚えているとか、世間を騒がせた責任を取る意味できちんとした説明をしたいという本人の希望があるとかいった特殊な理由があってのことであろうと推察します。

今に始まった話ではないかもしれませんが、メディアの書き方は時として結構乱暴です。「⚫︎⚫︎の弁護士が大激白!『これまでの話は全てウソだった』!!」なんて見出しが踊れば、「ああ、あいつは弁護士まで騙してたんだ。大悪人だな」なんて印象を与えてしまうでしょう。また、会見で涙を浮かべて語る弁護士のコメントまでが揚げ足を取られて面白おかしく書かれることだって珍しくありません。

ですが、弁護士であれば、すべからくクライアントの秘密を守るべき守秘義務を負っており、個々の好みや主義主張だけでメディアに露出しているわけではないはずです。
事件絡みでコメントを述べている弁護士をテレビで見掛けたら、きっと何らかの事情あって取材に応じているんだろうな、ということに少しでも思いを馳せていただけたら、同業者としても嬉しいです。