弁護士 金﨑浩之


 痴漢というと電車の中の痴漢を思い浮かべると思いますが、今回このブログで紹介するのは、駅前の駐輪場での痴漢です。

 その被疑者は、自転車の駐輪場で女性の乳房を触ってしまったんですが、屋外ということもあって、その被害女性が悲鳴をあげたため、周囲の通行人に取り押さえられ、警察に突き出されてしまったんです。
 女性の乳房に触ったのは、本当に一回だけ(1回ならよいという意味ではありませんよ)。
 この点、車内の痴漢とは違いますよね。車内は、被害女性も声をあげずらいらしく、痴漢も調子に乗ってくるようで、10分とか15分とか、痴漢行為も長時間に及ぶ傾向があります。10分、15分だと、かなりカラダを触られまくります。
 でも、本件は1回乳房に触っただけで取り押さえられてしまったため、犯行態様は軽微ですみました。なので、示談もさほど難航しないだろうと思われました。

 被疑者は、交番で誠実に示談することを約束し、現行犯逮捕は免れました。 そして、この示談交渉に私が被疑者の代理人として介入したんです。

 ところが、いざ被害女性との示談交渉を開始したところ、当初、慰謝料として金100万円も請求されたんです。確かに、痴漢は犯罪です。言うまでもなく、乳房を触った男が悪い。
 しかし、だからといって、慰謝料100万円が妥当かどうかは別問題です。

 そこで、私は、被害女性に対し、「本件は電車の車内などで発生した痴漢事件と異なり、乳房を1回触っただけで通行人に取り押さえられているので、民事裁判を起こしても、10万円程度の慰謝料しか認められないであろう」と説明しました。100万円の不当性をやんわりと説明したわけです。
 そうすると、被害者の要求金額は、その半額の50万円まで減額されました。

 こんなことを書くと女性に叱られるかもしれませんが、私は50万円でも高いと思いました。

 そこで私は、被害女性の要求金額を一応依頼者に報告したうえで、50万円でも法外な金額である旨を伝え、20万円程度を落とし所として解決したい方針があると伝えました。

 ところが、ところが、です。依頼者としては50万円でもよいのですぐに解決したい意向をお持ちでした。本件の依頼者もそうでしたが、有名企業にお勤めだったんですね。意外と痴漢で捕まる人って、社会的地位のある人が少なくないんです。
 彼にしてみれば、50万円で逮捕されるのを免れるのであれば恩の字というのが正直なところ。

 私は、恐がる依頼者に対し、「示談交渉は誠実に遂行しているので、今からの逮捕は現実性がないと思います。今から逮捕しようとすれば、令状逮捕になりますが、痴漢事件のほとんどが現行犯逮捕です。警察としては、令状逮捕で痴漢案件を扱うのは正直嫌がると思いますよ」とまで説明したんですが、それでもダメ。

 ということで、被害女性の要求金額を受け入れて金50万円で示談が成立し、事件解決となったわけであります。

 う~ん、おっぱい一握りで50万円かあ…。

 痴漢が如何に割が合わない犯罪か痛感できた事件でした。

 男性の皆さん、このことを肝に銘じて、くれぐれも痴漢なんてやらないようにしてください。
 この依頼者の場合は逮捕されてなかったからよかったのですが、痴漢で会社をクビになり、一生を台無しにしてしまった人、たくさんいますからね。