表題は、ハムラビ法典の有名な条文で、同害報復を限度に制裁を認める規定として皆さんもご存知かもしれません。

 もちろん、このようなルールが今の日本で成り立ち得ないことは言うまでもありません。「やられたらやり返せ」ではありませんが、何らかの犯罪の被害に遭ったとして、それと同じことを加害者に復讐すれば、復讐する側ももちろん同様の罪に問われてしまいます。
 「そっちが俺のもの壊したんなら、俺だってお前のもの壊してもいいよな。」
 民事の案件ながら、こんな脅し文句で脅迫してくる相手方との交渉に介入したことがあります。ものを壊すという行為が過失によるものであれば、刑事上は処罰対象とはなりませんが、仕返しであれ何であれ、故意に破壊行為に及んでしまうと、器物破損として最大3年以下の懲役刑を科せられることになってしまいます(刑法第261条)。

 このような話をすると、よく引き合いに出されるのが、「盗まれた自転車が放置されているのを見かけたときに、勝手に持って帰ってもよいのか」という問題です。
 現実的にこれで逮捕されたり処罰されることは考えにくいかもしれませんが、結論から言うと、盗まれて自分の手元を離れてしまった自転車を何の断りもなく取り戻すのは、窃盗罪ないし占有離脱物横領罪にあたってしまいます。

 このように、現在の日本の刑法は、犯罪の被害に遭ったとしても、自ら権利を保全することを原則として認めていません。侵害された権利を自ら回復することを「自救行為」ないし「自力救済」と呼びますが、これが許されるのは、講学上、擦られた財布をただちに取り戻す場合など、極めて限定的な場面のみとされるのが通説です。

 無限定に自力救済を認めれば、「仕返し」ばかりの世の中になって大変。かといって、目の前にある自分のものを取り返すことさえできないという結論も何となく座りが悪いですよね。法律の議論が一般的な感覚から離れてしまっている場面は少なくありませんが、この問題もそのような1ケースと言えるかもしれません。