最近、弁護士法人ALG&Associates 大阪法律事務所では経済事犯の法律相談が多いようです。
先日は、とある会社の法務担当者から意見を求められました。

相談内容は、労務関連の案件。
ちょっと困った従業員がいるんだけど、解雇しても大丈夫かしら?という相談でした。

労働事件と刑事事件、どういう関係が?と思われたアナタ。
もう少し我慢して読み進めてください。

その従業員(「A」としましょう)、会社では営業担当として働いているのですが、
そこそこ顔が広く、さまざまな方面に顔が利くらしいので、
会社の中では以前から結構重宝されていたようです。

ある日、Aのもとに、会社の資材調達の担当者がやってきて、こう言いました。
「ある商品を外注したいのだけれども、対応できる人、知り合いにいない?」
Aは、その後すぐに、何やら連絡を取っていたかと思いきや、
担当者に対して、「X」という会社が仕事を受けることができる旨回答しました。

そのような経緯で、会社とX社との取引が始まりました。
X社との間のやりとりは、もっぱらAが行い、
資材担当者はAに対して、希望発注量を伝えるのみ。
これに応じて、X社から商品が納入されるとともに、

請求書が同梱されていて、検収担当から経理に回される。
経理では、契約関係を確認の上、異常なしとして手形が決済される。

一見すれば、何の問題もない取引のようにも見えます。
事実、その会社でも、しばらくの間はこのスキームでの取引が続きました。

ところが。

納品される商品には、なぜか必ず「P社」のマークが入っている。
X社が製造をアウトソースしていると考えれば納得はいくのですが、

そもそもX社って何なんだ?

そんな疑問がある日経営陣から投げ掛けられ、総務が内々に調査してみた結果。

なんとX社というのは、Aが代表を務める会社であり、
実質的に大した事業を行っていないペーパーカンパニー。
その上、X社との取引での価額は、当該商品の一般的な市価よりもずっと高いことがわかったのです。

社内では大問題となりました。

法務担当からの相談内容としては、「Aが社内の兼業禁止規定に抵触していると思うので、解雇してもよいか?」というものでした。
しかし、それよりもずっと問題なのは、Aの行為が刑法上の背任罪にあたってしまう可能性が極めて高いことです。

刑法247条は、「他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図・・・る目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加え」る行為を禁止しています。
少し難しい規定ではありますが、要は、自分の利益を図るためにズルをして会社に損害を与えるような行為は、背任罪として処罰されることになってしまうのです。

Aが会社から与えられていた権限がどのようなものであったかが問題とはなるものの、
自前の会社の利益のために、敢えて価格を吊り上げていたことが明らかになれば、
Aとして重い刑責を免れ得ない場合も十分に考えられます。

今回の記事は、会社側からみた背任絡みの案件ですが、
会社のお金を流用してしまった、とか、
カラ出張がばれてしまった、とかいった法律相談は決して少なくありません。

それが少額であれば、会社の中で懲戒を受ける程度で済むかもしれません。
しかし、額の多寡にかかわりなく、不正に会社からお金を引き出す行為は、
上述のような背任とか、場合によっては横領や業務上横領に当たりかねない、
刑法上も違法な行為です。

背任罪や単純横領罪の法定刑は上限が5年ですが、業務上横領罪は10年。
取締役など、会社役員の地位にある人が行った横領行為であれば、
この10年の懲役に、1000万円以下の罰金をも併科されるかもしれません
(会社法上の特別背任罪。会社法960条)。

軽い気持ちで行った不正が、取り返しのつかない事態を招きかねません。
会社のお金は会社のお金。危ない橋は渡らないことです。