弁護士の坪井智之です。
 本日は、家庭内で起こりうる犯罪に対して、どういった法律が適用されるのか類型別で紹介します。

 ファミリー・バイオレンスとは、家庭内の親密な関係にある人々の間の暴力を広くさします。

① 親から子供への虐待(児童虐待)
② 配偶者間の暴力(DV)
③ 養護者による高齢者に対する虐待
④ 思春期・青年期の子どもによる親に対する暴力などに分類することができます。

 これらはいずれも暴行罪や特別法によって対処されますが、これらの犯罪は室内で行われるのが通常であるため、傷痕や周囲の方の証言等しか証拠がなく、立証は容易ではありません。

①は、児童虐待の防止等に関する法律(以下、「児童虐待防止法」という)が規定されています。
②は、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(以下、DV法)という)が規定されています。
③は、高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(以下、「高齢者虐待防止法」という)が規定されています。
④ は、特別法はなく、通常の刑法犯として暴行罪や傷害罪によって対処されます。

児童虐待防止法

 この法律は、児童虐待の予防及び早期発見によって、虐待を受けた児童を保護することを目的としています
 児童虐待防止法9条は、実際に虐待が行われているおそれがあると認める場合に、児童の住所等へ立ち入り、必要な調査することが出来る旨規定しています。また、児童虐待防止法9条の3は、一定の要件のもとで、裁判所の発付する許可状により、実力行使を行う臨検・捜索を行うことが出来る旨も規定しています。

 そして、児童福祉法との関係で一時保護や社会的保護(児童養護施設に入所させりすること)ができる場合や保護者の子へ通信を制限したり、接近を禁止したりすることもできる場合があります。これらの措置を行うことで、子への安全を確保し、虐待の予防・早期発見を行っています。

DV防止法

 DV防止法は、配偶者暴力等から保護するために特別規定された法律です。
 そもそも、配偶者からの暴力(DV)とは、配偶者からの身体に対する暴力、又はこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動をいいます。
 DV防止によって、配偶者からの一定の暴力を受けた被害者は、裁判所に申立てを行うことで保護命令の発令を求めることができます。保護命令に違反した場合には、罰則も用意されています。主に以下のような保護命令を被害者の方は、申立を行っています。

① 接近禁止命令
② 退去命令
③ 電話等による接見禁止命令
④ 被害者の子への接見禁止
⑤ 被害者の親族などへの接見禁止命令

高齢者虐待防止法

 この法律は、家庭内における養護者による高齢者虐待と、施設における従業員等による高齢者虐待について規定した法律です。
 高齢者虐待とは、65歳以上の高齢者に対する養護者による虐待行為をさし、具体的には、①身体的虐待②心理的虐待③性的虐待④ネグレクト⑤経済的虐待があります。
 高齢者虐待の防止は、児童虐待の場合と同様、問題が深刻化する前の早期の対応が重要であることから、発見、通報、保護といった一連の取り組みについての規定は、児童虐待防止法に類似する点が多く、老人短期入所施設への一時保護や入所措置が採られた場合の養護者による高齢者との面会制限等が規定されています。
 他方で、児童虐待と異なり、高齢者虐待の場合は、成人であることから、臨検・捜索制限や接近禁止命令制度が設けられていないなどの違いもあります。

 以上のように家庭内の犯罪行為については、刑罰のみならずその問題を解決するための法律制度が準備されています。

弁護士 坪井 智之