先日、私は慢性期医療展2015において簡単なセミナーを担当させていただきました。
その際、後見人にまつわる法律問題等についても触れましたので、今回は後見人が被後見人の財産を横領した事案について検討してみようと思います。
まずは後見人とは誰でしょうか。
認知症の方は、法律行為(不動産の売却等)を行えません。
そのような方(被後見人)が法律行為をせねばならない場合、後見人を選任して、後見人が被後見人を代理して法律行為を行います。
後見人を選任するためには、家庭裁判所に申し出て、弁護士等の職業後見人や親族等の親族後見人を選任します。
最近、後見人による横領事件をよくみかけます。
まずは職業後見人による業務上横領事件ですが、弁護士や司法書士が成年後見人として管理していた預金等を着服したとして業務上横領罪に問われているものはたくさんあります。
そのうちの1つの裁判例を紹介します。
神戸地裁平成26年9月2日判決
遺言執行者の指定を受けた司法書士が約750万円を自己名義の預金口座に振り込み入金した事案で、本件犯行は司法書士の業務に対する社会の信用を失墜させるものであるが、被害弁償はしており、懲戒処分により司法書士登録を取り消されているため、再犯の可能性はないということで執行猶予がついた事案でした(懲役2年6月 執行猶予3年)。
当然大部分の職業後見人は清廉性を保ち、被後見人の財産に手をつけることなど致しませんが、横領した言い訳としてはバブルがはじけて借金まみれであったり、投資に失敗して借金まみれであること等が多いです。 なんとかしてそのような職業後見人を排除できる仕組みを作っていかねばなりませんね。
次に、親族後見人による業務上横領事件ですが、実は、後見人による業務上横領事件の約9割はこちらです。
後見人になると、自分の財布かのように被後見人の財産を使われる方がおられるようです。
そのうち1つ最高裁判例をご紹介いたします。
最高裁平成20年2月18日決定
家庭裁判所より、孫の未成年後見人に選任されたものが、後見の事務として業務上預かり保管中の孫の貯金合計1500万円余りを引き出して横領したという業務上横領の事案です。
この事案の争点は、被告人が未成年被後見人の祖母であるから、親族相盗例により刑を免除すべきではないかということが争われました。
では、親族相盗例とは何でしょう。
「法は家庭に入らず」との理念に基づく規定で、配偶者または親族の間で窃盗罪や横領罪を犯した場合、刑を免除するというものです。
それでは、孫の財産を横領した本件では親族相盗例の適用があると言ったのでしょうか。
答えはノーです。
最高裁は、未成年後見人と未成年被後見人との間に親族関係があったとしても、後見事務は公的性格を有するものであるのから、親族相盗例の準用はないとしました。
このようにかなりの親族後見人が横領をするので、最近では一定額以上(地域によって差異はあるが、最近では基準額が下がってきている)の財産を有する成年(未成年)被後見人の後見人が親族である場合、家庭裁判所が、後見監督人や信託の制度を用いることを強制することで、後見人の横領を減らす努力をしているようです。
みなさんは、人生の最後、誰に自分の財産を託すのでしょうか。