1 財産犯と親族間の特例について

 親族間における財産犯については、刑法上「親族相盗例」と呼ばれる特例が設けられています。

 すなわち、配偶者、直系血族または同居の親族との間で窃盗罪、不動産侵奪罪、これらの未遂罪を犯した者についてはその刑が免除され、その他の親族間で行われた場合は告訴がなければ起訴することができない(親告罪)と規定されており(刑法244条)、詐欺罪、背任罪、恐喝罪、横領罪にも準用されています(刑法251条、255条)。

 これらの規定は、「法は家庭に入らず」という政策的考慮に基づき、その犯人の処罰につき特例を設けたにすぎず、犯罪の成立自体を否定したものではないと考えられています。

2 後見人と被後見人との間に親族関係がある場合の横領罪の成否

 上記のように、刑法244条所定の親族間で横領罪に該当する行為が行われたとしても、原則として刑が免除されるか、告訴がなければ起訴されないことになります。

 それでは、後見人と被後見人との間に刑法244条所定の親族関係があるときに、後見人が自己の占有する被後見人の財産を横領した場合にも、同条の準用が認められるでしょうか。

 この点について、最高裁平成20年2月18日決定は、

「刑法255条が準用する同法244条1項は、親族間の一定の財産犯罪については、国家が刑罰権の行使を差し控え、親族間の自律にゆだねる方が望ましいという政策的な考慮に基づき、その犯人の処罰につき特例を設けたにすぎず、その犯罪の成立を否定したものではない

との一般論を述べた上で、

「家庭裁判所から選任された未成年後見人は、未成年被後見人の財産を管理し、その財産に関する法律行為について未成年被後見人を代表するが(民法859条1項)、その権限の行使に当たっては、未成年被後見人と親族関係にあるか否かを問わず、善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務を負い(同法869条、644条)、家庭裁判所の監督を受ける(同法863条)。また、家庭裁判所は、未成年後見人に不正な行為等後見の任務に適しない事由があるときは、職権でもこれを解任することができる(同法846条)。このように、民法上、未成年後見人は、未成年被後見人と親族関係にあるか否かの区別なく、等しく未成年被後見人のためにその財産を誠実に管理すべき法律上の義務を負っていることは明らかである。

 そうすると、未成年後見人の後見の事務は公的性格を有するものであって、家庭裁判所から選任された未成年後見人が、業務上占有する未成年被後見人所有の財物を横領した場合に、上記のような趣旨で定められた刑法244条1項を準用して刑法上の処罰を免れるものと解する余地はないというべきである」

と判示し、刑法244条1項の準用を否定しました。

 本決定は、親族関係よりも後見人の公的性格を重視する立場を明らかにしたものといえるでしょう。後見人に選任された場合には、たとえ被後見人が親族であったとしても、その財産を誠実に管理する必要がありますのでご注意下さい。