負傷者がいる場合は救護を優先すること

もっとも、事故により負傷者が出ている場合には、当たり前のことですが、その救護を最優先にしてください。この救護義務を怠った場合、「5年以下の懲役または50万円以下の罰金」に処せられることがあります。さらに、死傷の原因を作った運転者が救護義務を怠った場合については、「10年以下の懲役又は100万円以下の罰金」という法定刑が定められています。

それとは別に、交通事故の当事者には法律上課せられた義務があります。それが、道路交通法72条1項後段に定められた「報告義務」です。
事故がいわゆる物損で、比較的軽微である場合、当事者同士で連絡先を交換し、そのまま事故現場を離れるようなケースがあることを耳にします。
しかし、交通事故があった場合、その交通事故を起こした自動車等の運転者は、事故発生の日時、場所、死傷者の数、負傷者の負傷の程度、壊れた物があればその物と壊れた程度などについて報告しなければならないと定められています。これが「報告義務」です。そして、この報告義務違反にも刑罰を伴う罰則が定められており、「3月以下の懲役または5万円以下の罰金」を科せられる可能性があります。
したがって、軽微な事故だからといって当事者だけの判断で警察に通報せず、その場を離れるようなことは厳に慎んでください。

この報告義務には、事故の場合に当事者の判断で安易に交通に障害がないとか、救護の必要がないとかいう判断をすることを戒め、警察にその判断をゆだねるという意味があります。判例上も、事故発生の際に、被害者に対する救護の措置が終わり交通に支障がない状態であっても、報告義務がなくなることはないと解されています。

事故の報告には自分の身を守る意味も

また、被害者や被害を受けた物件についての配慮とは別に、事故に際しての報告には自分の身を守る意味もあります。事故が起きた場合、相手方と交渉して示談を行ったりして事故の解決を図る必要があります。保険を使うことも多いでしょう。このような場合に必要となるのが交通事故証明書です。しかし、交通事故証明書は警察に事故の届け出をしていないと出してもらえないのです。

さらに、道路交通法72条1項後段は、報告の仕方について、事故の現場に警察官がいるときはその警察官に報告すること、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(派出所または駐在所を含む)の警察官に報告すべきことを定めています。事故の現場に警察官がいることは稀でしょうから、基本的には、「最寄りの」警察署に、「直ちに」報告することになるでしょう。

問題となるのは、この「最寄りの」及び「直ちに」の意味です。
「直ちに」とは、時間的にすぐにと理解され、「遅滞なくまたは速やかに」よりもより即時のものと法律上考えられている用語です。したがって、判例上、道路交通法の報告義務の「直ちに」は、「救護等の措置以外の行為に時間を割いてはならないという意味」とされています。
また、法は「最寄りの」警察署等への報告を求めていますから、たとえば自分の都合で、仕事場に出勤してから職場に近い警察署等に報告しても、報告義務を果たしたとは認められないのが原則です。
したがって、交通事故の場合、救護や安全確保に必要な措置をとった後は、できる限り早くその場で110番通報するのがよいということになるでしょう。
決して、自分たちの勝手な判断で行動しないようにしてください。