先日、こんな事件がありました・・・・

Aさんは、会社の上司に飲みに誘われ車に乗って居酒屋に向かいました。会社から歩いて行ける居酒屋はなく、いつも車で居酒屋まで向かい帰りは代行運転で帰っていました。いつもの事だとAさんは考えていましたが、この日に限って代行運転が見つかりませんでした。
すると・・・・
その上司は、Aさんに向かって「帰るぞ!! 乗れ!!!」
Aさんは、その上司が飲酒していることは当然知っており、交通違反である事は十分認識していましたが、普段から強引な上司で、Aさんは逆らうことができず、しかも、突然の出来事で考える時間もほとんどなかったことから、同乗してしまったのです。

車を走らせ5分・・・・ 飲酒検問・・・・ 検挙されました。
3か月後、公安委員会からAさんの下に「免許取り消し処分予定」として聴聞の呼び出し通知が来たのです。

昨今、飲酒運転の厳罰化が進んでいることは既に御存じだと思います。

「飲酒運転で捕まると、罰金が高額で、免許も取消になる。同乗者も罰金になる。」
一般的な認識はこんな感じではないでしょうか。

少し詳しく知っていても、
「飲酒運転をすれば、反則金ではなく、刑事処分として罰金刑(略式裁判)を受け、行政処分として減点の結果免許取消になる。」
という程度ではないでしょうか。

具体的な罰金額や減点点数は、ネットを見れば情報を得ることができます。

では、同乗者の行政処分についてはどうでしょう。意識されている方は少ないのではないかと思います。

道交法上、飲酒運転の車両に同乗した者も、運転者と同程度の行政処分がなされる仕組みとなっています。
道交法103条1項6号「重大違反唆し等」に該当するとして免許取消処分がされます。

もっとも「唆し等」という言葉はあいまいです。
裁判例によると、「重大違反唆し等に該当する為には、少なくとも、既に酒気帯び運転の意思を有する者による酒気帯び運転行為を物理的、心理的に容易のすることが必要であり、単に、酒気帯び運転であることを知りながら自動車等に同乗するだけで、運転者による行為を何ら助けるものでないときは、重大違反唆し等に該当しない」(東京高裁平成23年7月25日判決・平成23年(行コ)第99号。)とされています。

飲酒運転をした上司に話を聞くと、Aさんを強引に乗車させたことや、Aさんが自分に逆らえないことを話してくれました。

聴聞では、交通審判官から事情を聞かれたうえ、被聴聞者の弁明の機会が与えられます。
ここで、きちんと説明しないと行政処分がなされてしまいます。
一般の方に十分に聴聞の準備をし、法的な観点から弁明を行うことは非常に困難です。
たいていの方は、「事実に間違いはありません。免許が無くなると仕事を失い困ります。」というお願いに終わってしまっています。
一度取消処分がされると、取消訴訟という方法でしか取り消せないので、不可能に近いといえます。聴聞で対応するのが何より重要です。

Aさんがどうなったかというと、無事、不処分となり免許取消を逃れました。

一度、法律の専門家に御相談することをおすすめします。