1 要綱第一(強姦の罪の改正)

(強姦)
第177条 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という)をした者は、強制性交等の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の者に対し、性交等をした者も同様とする。

(1)概要

客体の拡大
 客体が女性に限定されず、男性にも拡大されました。

構成要件の拡大
 膣性交のみならず、肛門性交や口腔性交まで含まれるようになりました。
 「性交」とは、膣内に陰茎を入れる行為をいいます。行為者が、自己又は第三者の陰茎を被害者の膣内等に入れる行為のほか、被害者の陰茎を自己又は第三者の膣内等に入れる、いわゆる「挿入させる行為」をも含むものです。
 「口腔性交」とは、口腔内に陰茎を入れる行為をいいます。口淫より狭い概念であり、女性器を舌でなめる行為は含まれません。陰茎を唇に押し付けるような行為、あるいは異物を挿入する行為等につきましても、これに該当しません。

重罰化(3年以上の有期懲役→5年以上の有期懲役
 法定刑が加重されました。

(2)反対意見

 以下のような意見、反対意見があります。

名称について
 「強制性交」という名称が適当なのか。人の極めてパーソナルな領域への侵襲が許されないという点に焦点を当てるべきであるという考えから、「性的侵襲」「性的侵入」という名称にするべきである(小西委員)。
 性暴力は「性交」ではなく、性的手段を用いた暴力であるという本質を罪名でも端的に表すべく、「性的攻撃罪」「性的挿入罪」「性的接触罪」といった罪名にするべきであったのではないか。

重罰化について(宮田委員)
 刑の二重の重罰化が適当か。すなわち、肛門性交、口腔性交、性交させる行為という今まで強制わいせつ罪で罰せられていたものが、強姦と同じ刑になるというだけではなくて、強姦と一緒に刑の下限が5年まで引き上げられるということで、二重の重罰化が図られるのではないか。罰則を重くすることで、性犯罪者は社会から排除されるべきだという誤ったメッセージが伝わり、今まで以上に、更生保護施設が性犯罪者を受け入れないといった運用に拍車がかかるのではないか。
 そもそも、重罰されることで性犯罪者が更生されるのか(むしろ、刑務所ではなく性依存からの脱却に向けた施設での更生の方が再犯防止に資するのではないか)。

構成要件の更なる拡大化について
 女性器や肛門への手指や異物の挿入も「姦淫」と同等に取り扱うべきではないか。
 なお、ミシガン州法やイギリス法などでは、性器や肛門への異物や手指の挿入も、「姦淫」と同等の法定刑としているものも複数みられます(法制審議会第一回配布資料11―1~11―7 http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00122.html)。

2 要綱第二(準強姦の罪の改正)

(準強制わいせつ及び準強制性交等)
第178条 (略)
2 の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条の例による。

3 要綱第三(監護者わいせつ罪、監護者強姦等罪の新設)

(監護者わいせつ及び監護者性交等)
第179条 十八歳未満の者に対し、その物を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為をした者は、第一七六条の例による。
2 十八歳未満のものに対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性交等をした者は、第一七七条の例による。

(1) 概要

 「監護者であることによる影響力があることに乗じ」、「18歳未満の者」に対し、わいせつな行為や強姦罪等をした場合、それぞれ強制わいせつ罪や強姦罪と同様の法定刑が科されます。
 18歳未満の者が精神的に未熟であるうえ、生活全般にわたって自己を監督し保護している監護者に精神的にも経済的にも依存している、そういった関係にあることに着目して規定されたものです。監護者がそのような関係性を利用して18歳未満の者と性交等を行った場合には、18歳未満の者の自由な意思決定に基づくものとはいえず、性的自由を侵害する行為として、強姦罪等と同様に処罰する規定を設けようとするものです。
 「監護者」であるか否かの主な判断としては、同居の有無、居住場所の関係、未成年者に対する指導状況、身の回りの世話等の生活状況、生活費の支出などの経済的状況、未成年者に関する諸手続などを行う状況等が挙げられると思われますが、これは裁判例の蓄積を待つしかありません。

(2)意見

被害者について
 被害者が18歳未満の者に限定するべきではない。

加害者について(武内委員)
 たとえば教師と生徒の関係、雇用関係、スポーツの指導者と選手等の人間関係においては、実際に、立場の強さに乗じた性暴力が発生しているのに、監護者に、どうして限るのか。少なくとも、教師についても、同様の罪を設けるべきである(小西委員)。
 将来的には本罪の主体に関して処罰範囲を広げていくということも考えていのではないか。

4 小括

 次稿では、強姦の罪等の非親告罪化などについて説明していきたいと思います。

次回:【強姦罪が強制性交等罪に変更。110年ぶりの法改正で強姦罪はどう変わる?③】