結論から言いますと、強姦罪は成立せず、強制わいせつ罪が成立するにすぎません。なぜなら、③「女子」を姦淫したとはいえないからです。この場合は、強制わいせつ罪を犯した者として、6月以上10年以下の懲役が科されることになります。
 このように、客体の性別によって、量刑に大きな開きがあるのです。

3 肛門性交や口腔性交(口腔内に陰茎を入れる行為)をしただけでの場合は?

 では、男性が女性に対して、暴行又は脅迫をして肛門性交や口腔性交だけをした場合(裏を返せば膣性交しなかった場合)、強姦罪は成立するのでしょうか?

 これも結論からいいますと、強姦罪は成立せず、強制わいせつ罪が成立するにすぎません。もうお分かりかと思いますが、男性器の女性器への挿入がない以上、③女子を「姦淫した」とはいえないからです。

 このように、現行刑法では、同じ加害者から同じように性的に侵入されても、挿入された場所が膣であるか、肛門ないし口腔内であったかによって、成立する犯罪が異なるのです。

4 「暴行又は脅迫」に関して

 では、最後に、13歳以上で18歳未満の女子が、実親や養親等の監護者からの要求を断りがたいというプレッシャーを感じつつ、監護者に嫌われたくない一心で性交に応じていたような場合など、監護者が暴行又は脅迫を用いずにその影響力があることに乗じ性交した場合、強姦罪が成立するでしょうか。

 この場合、強姦罪はもちろん、強制わいせつ罪も成立しません。なぜなら、被害者が13歳以上の女子の場合には、上記のとおり、①「暴行又は脅迫」という手段が必要であるところ、今挙げた例ではこれがない以上、強姦罪が成立しないからです。同じ理由で、強制わいせつ罪も強要罪も成立しません。

 成立する犯罪は児童福祉法34条6号違反(10年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金、又はこの併科)や青少年保護育成条例違反(東京都の場合、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金)であり、比較的量刑も軽いです。また、児童福祉法違反の場合、被害者参加できない点でも問題があります(316条の33の第1項)。

5 小括

 この記事を読まれた皆さんは、上記のこれらの結論に違和感を覚えられたのではないでしょうか。
 このように、現行刑法の強姦罪に関する規定については、被害者が女性に限られる点で男女の性差ないし性別に基づく格差があること、姦淫の定義が狭いこと、監護者の地位を利用した性行為に対して強姦罪や準強姦罪等で処罰することが困難であることなど、多くの問題点があります。

 次稿では、法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会においてまとめられた改正刑法要綱案について説明していきたいと思います。

次回:【強姦罪が強制性交等罪に変更。110年ぶりの法改正で強姦罪はどう変わる?②】