この前まで、今回のブログではアメリカのある女性の件で、尊厳死と安楽死について取り上げようかと考えていました。しかし、ブログを執筆中に、京都大学に警察が立ち入って拘束されたという事件の一報を耳にしてしまいました。
京都大学での事件は、一法曹として、また大学時代に憲法を専攻していた者として、非常に刺激されるニュースです。今回はぜひこの件について検討してみたいと思います。
簡単に流れを追うと、11月2日に東京で行われた「労働者総決起集会」デモ参加者で逮捕された方の中に京大生がいたことが原因なのか、11月4日の昼頃、公安警察官Aが京大の構内に立ち入っていたところ、学生BがAを発見して拘束した。京大会議室で学長及び学生ら6人がAを追及したところ、警察がAの引渡しを求めて京大の手前に機動隊を展開させる事態となった。Aが解放された現在にあっては、警察はBらについて、Aに対する逮捕・監禁罪の成否を検討している、とのことです。
さて、Aに対する京大生Bらの逮捕・監禁罪の成否はどうなるのでしょうか。また、警察官Aの職務をBらが邪魔したことは明らかですから、公務執行妨害罪はどうでしょうか。
まず前提として、Aが京大に立ち入ったことはどう問題になるのでしょう。
憲法は23条において学問の自由を保障しています。学問は(特に、現在の常識や体制に対する)批判を必ず伴いますから、学問が最も盛んに展開する場としての大学は、基本的に現在の政治体制に嫌われる存在です。そのため、大学が学問の場であり続けるために、大学から現在の政治体制による介入(国家権力)を排除することが必要とされています。
したがって、憲法23条は、学問の自由を保障したことの当然の帰結として、大学の自治を保障している、すなわち、国家権力に勝手にちょっかいをかけられないように大学を守っていると解釈されています。
これは、大学に国家権力が入ってきてはいけない、国家権力は大学の自由な運営に口を出してはいけないということなので、大学が治外法権だと言っているのではありません。
警察は、言わずもがなですが国家権力です。
警察官が職務行為として大学に入ってくるということは、大学の自治を直接侵害したことになります。昼頃、という時間帯から見て恐らくAは職務中だったと考えられるので、Aの京大への立入行為は、憲法23条違反の疑いが濃厚です。
公務執行妨害罪にいう「公務」とは、違法なものであってはいけないので、警察官が違法な行為をしているときにこれを邪魔しても、公務執行妨害罪は成立しません。したがって、Aの京大への立入行為は、違憲・違法なものであると考えられる以上、Aが大学に立ち入って職務を行っていたことを邪魔したからといって、公務執行妨害罪は成立しないでしょう。
では、Aに対するBらの逮捕罪及び監禁罪はどうでしょうか。
逮捕罪は、人の身体を直接拘束して移動の自由を奪ったとき、監禁罪は人を空間的に閉じ込めて移動の自由を奪ったときに成立します。
今回のBらがどういう態様でAに接したのかは、いま報道されているニュースからだけでは十分にわかりませんから、この点は断言できません。しかし、Aが先に大学の自治を侵害している一方、Bらが学問の自由を保障されている大学生ら(あるいは、学長ら)であって大学内で活動していたことからすると、BらがAを大学から追い出すためにするある程度の行為は、社会的相当性があると考えられます。 その場合は、逮捕・監禁罪の成立を認めるためにはBらの行為に「違法性」の要素が足りないとして、結局犯罪は成立しないでしょう。
社会的に相当性がない行為、たとえば、手足をひもで縛ったり暴行を加えたりAの持ち物を壊していたりすると、逮捕・監禁罪の成立も考えられると思います。
この点は非常に微妙な判断でしょうから、事実を一つ一つ丁寧に検討しないと、成否の判断は難しいところです。
警察・検察は、今回の件を最終的にどう判断するのでしょうか。続報を待ちたいと思います。