皆様こんにちは。弁護士の菊田です。

 本日は、将来介護費について、実際にあった事案(東京地裁平成15年8月28日判決・自保ジャーナル1525号)を紹介しながら説明したいと思います。

 将来介護費とは、交通事故によって後遺症等が残り、医師の指示又は症状の程度により将来にわたって介護が必要であると認められる場合に、賠償が認められる費用です。具体的な金額としては、職業付添人であれば実費全額、近親者付添人であれば1日8000円の賠償が認められるのが一般的です。

 このように、職業付添人と近親者付添人で金額が異なってくるため、裁判においては、職業付添人が必要なのか、それとも近親者付添人で足りるのか、という点が争われることがあります。また、介護が長期にわたるような場合には、そもそも職業付添人の費用はどのようにして計算されるべきなのかという問題も生じます。このような点について判断を示したのが、上記東京地裁の事案です。

事案の概要

 21歳女子会社員の原告は、平成9年8月12日午前1時33分頃、タクシーに乗車していたところ、被告の運転する普通貨物車と衝突しました。この事故によって、原告は、開放性脳損傷等で入院し、高次脳機能障害等1級3号、右眼喪失、顔貌醜状等を残しました。

裁判所の判断

 裁判所は、

(1)職業付添人が必要か、近親付添人で足りるかという点については、

(ⅰ)原告は、左半身麻痺等の事故の状況に関する認識の欠如、集中力、注意力、論理的な思考能力の欠如から、介護者にとって予測困難な行動をとって自らを危険にさらす可能性が大きく、このような危険を防止するために、随時ではなく常時の監視が必要であること

(ⅱ)監視は、原告の症状・行動態様の特性等をよく理解した者が適切な監視、促しを行う必要があること

等から、基本的には、原告母がその就労可能期間の終期である67歳になるまでは近親付添人(原告母)による介護で足り(介助が必要と認められる外出・入浴等の行動もあることから、2時間程度は職業付添人による介護が必要とも判断されました)、その後は、職業付添人による介護が必要であると判断しました。

(2)職業付添人の将来介護費については、

(ⅰ)当時介護保険制度自体が検討・見直されていたこと

(ⅱ)今後介護サービスが多様化することが予想されるところ、原告のように肉体的な負担は少ないが常時監視が必要な介護サービスについては、肉体的負担の大きいサービスよりも介護費としては安価な介護方式が提供されると予測されること

 から、原告が死亡するまで現在の介護費の価格水準がそのまま維持される可能性は低いとして、原告らが立証した1日4万円という金額の6割である1日2万4000円を基礎として算定しました。

 被害者が若く、将来の職業付添人費用の必要性が数十年にも上る場合には、介護費の平均価格等の変化が起こる可能性もあり、なかなか介護費を計算することは難しいと思います。かといって、本件のように、将来の価格水準下落が予測されることといった不確実な事柄を根拠にして、賠償額を減額することについては、議論の余地があるのではないかと個人的には思います。