自賠責保険は、自動車の運行により死傷した被害者に対する被害救済を目的とした強制加入保険であり、その補償内容は、支払限度額や支払基準が定められ、画一的な運用がなされています(自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準金融庁・国土交通省平成13年告示、自動車損害賠償保障法施行令2条及び別表第1、第2)。
この基準には、被害者側に過失があった場合における減額の基準(重過失減額)も規定されています。この「重過失減額」は、交通事故訴訟における「過失相殺」とは異なり、一定以下の過失(被害者側の過失割合が7割未満の場合)については減額の対象外とされています。
裁判所は、これら支払基準に拘束されないとの立場を明確にしています(最判平成18年3月30日判決、最判平成24年10月11日判決)
(※ただし、自賠責保険の請求における“支払限度額”には拘束されます。)
すなわち、裁判所は自賠責保険金請求訴訟においても、自賠責保険金額の範囲内で自由に判断できるということです。
そして、前述の最高裁平成24年10月11日判決では、重過失減額と民法上の過失相殺のいずれを裁判所が行うべきか、という点について「裁判所は・・支払基準によることなく、自ら相当と認定判断した損害額及び“過失相殺”に従って保険金の額を算定して支払いを命じなければならない」判示しています。
これは、損害額自体は自賠責保険の支払基準額より多く認定されたとしても、過失相殺が行われることにより、最終的な支払金額が下がる、という可能性も示しています。
自賠責保険は、訴訟で請求が棄却された場合でも、支払済みの保険金の返還請求をしない運用がなされています。
したがって、これら最高裁の見解を前提に考えると、被害者側の過失が大きい事案では、自賠責保険に対する請求を先行させることも検討しなければならないでしょう。