交通事故で加害相手方に損害賠償を請求する場合、被害者側に過失があれば、被害者の過失についても考慮したうえで、損害賠償額が算定されることになります。
 これを過失相殺といいます。

 今回は、原付事故でヘルメットのあごひもを装着していなかった被害者に過失が認定された事案を紹介します。

事案の概要

 17歳男子高校生の原告は、平成11年8月13日午前1時40分ころ、赤点滅交差点に原付自動車で右折侵入し、被告運転の乗用車が記点滅で侵入してきて衝突し、その結果原告は、脳挫傷等で76日入院、862日通院し、後遺症として5級2号高次脳機能障害を残した。
 そこで、原告は、被告に対し、7000万円の請求を行った。
 裁判所は、本件事故の過失割合について、上記状況における原告と被告の基本的過失割合を原告6割5分、被告3割5分と判示した上、①原告原付が先に交差点に進入していること②被告車には少なくとも20キロメートルの速度違反が認められること③原告原付が、交差点に進入する際徐行しなかったこと④原告が、本件事故当時ヘルメットを頭部に被せていたが、あごひもを装着していなかったことを総合して、本件事故の過失割合は、原告6割、被告4割と認定した。

 この判決において、(上記事案の概要には記載していませんが)理由中で、原告がヘルメットのあごひもを装着していなかったことについて、裁判所は、「原告に1割の加算修正するのが相当である」と判示していることが注目されます。

 もっとも、裁判所は、本件の原告の負傷が、頭部外傷による脳挫傷であり、本件において、

「あごひもを装着していなかったことから、ヘルメットは頭部を保護する役割を果たさなかったと推認され、そのことが、原告の本件事故による頭部外傷に伴う損害の発生及びその拡大に影響を与えたと考えられる」

と述べており、本件事故における損害について、あごひもを装着しなかった事実が、本件事故における損害を拡大したことを詳細に検討していることからすれば、傷害の発生原因、傷害の部位・程度、あごひもの不装着が傷害拡大をした寄与の程度等により、過失の加算修正の割合は事案ごとに異なるものと考えられます。

 ヘルメットをしていた場合であっても、その装着方法が不適切な場合、過失の加算修正割合を1割とした点については、参考になるでしょう。