1 はじめに
皆様、こんにちは。
皆さんも仕事仲間や友人とお酒を飲む機会も多いと思います。
しかし、お酒を飲んだ場合、もちろんご存知かとは思いますが、自分で車を運転することは道路交通法という法律で禁止されています。
そして、車を駐車場に置いたままにしておく場合などは別ですが、車の運転手に対して、お酒をすすめることなども道路交通法で禁止されています。
さらに、もし飲酒したまま運転しようとした場合、その車に同乗する、例えば、車で家まで送ってもらうことなども道路交通法で禁止されています。
これに違反した場合は、罰金や懲役などの罰則も法律で定められています。
なので、もし、車でお店までやってきてお酒を飲んだ場合、いくら少量しか飲んでいない、自分では酔っていないと思っても車の運転は控えてください。
2 運転代行(代行運転)
しかし、車をお店の駐車場や有料の駐車場に置いたままにしておくこともできないこともあると思います。
そんなときに運転代行(代行運転とも言うそうです)を利用された方もいるとは思います。
運転代行とは、飲酒などの理由で自動車の運転ができなくなった依頼者の代わりに運転代行業者が依頼者の車を運転して、自動車を目的地(主に依頼者の自宅)に送るサービスをいいます。
つまり、一般的に、運転代行業者のドライバーが2名1組となって、1名が依頼者の車に依頼者を乗せて運転し、その車にもう1名が運転する随伴車が追走し、依頼者を目的地(主に依頼者の自宅)まで送り依頼者の車を駐車した後、そのドライバーを随伴車に回収して営業所に戻る、という仕組みを取るということになります。
3 運転代行中の事故
では、このような運転代行中に、依頼者を乗せ運転代行業者が運転する車が事故を起こして、依頼者が負傷した場合を想定しましょう。
この場合、運転代行を依頼した依頼者は、自動車賠償責任法(以下.「自賠法」といいます。)上の保険金を請求できるのでしょうか。保険金を請求できるならば、依頼者は保険金を治療費等に充てることができます。
自賠法上は、「自己のために自動車を運行の用に供する者」が「他人の生命又は身体を害したとき」に運行供用者責任が発生するとされ(自賠法3条)、この責任が発生する場合.被害者は、自賠責保険会社に対して、保険金を請求することができます(自賠法16条)。
ここで問題となるのは、①他人の自動車を運転しているだけの運転代行業者が「自己のために自動車の運行の用に供する者」にあたるか、②その車に同乗しているXが「他人」にあたるか、という2点です。この①と②が肯定されれば、Xは、自賠法上保険金を請求できることとなります。
4 運転代行中の事故についての判例
運転代行中の事故に関して、次のような事案で、以下のように判断しました。
事案の概要
会社所有の自動車(以下、「本件自動車」といいます。)を貸与され、私的に使用することも許可されていた従業員のXは、勤務を終え、店まで本件自動車で行った後深夜まで飲酒し、運転代行業者であるA代行社にXの自宅まで運転代行を依頼しました。A代行社は依頼を承諾した上でA代行社従業員のB及びCを派遣し、BがXを助手席に乗せて本件自動車を運転しました。Xの自宅へ向かう途中に、Bが運転する本件自動車がD車に衝突し、Xが負傷したという事案です。Xは、本件自動車の自賠責保険会社に対して保険金の支払いを求めて裁判を起こしました。
判旨
① A代行社が「自己のために自動車の運行の用に供する者」にあたるか
A代行社は、運転代行業者であり、本件自動車(会社の車)の使用権を有するXの依頼を受けて、Xを乗車させて本件自動車をXの自宅まで運転する業務を有償で引き受け、代行運転者であるBを派遣して右業務を行わせていたのであるから、本件事故当時、本件自動車を使用する権利を有し、これを自己のために運行の用に供していたものと認められる。
② Xが「他人」にあたるか
自動車の所有者は、第三者に自動車の運転をゆだねて同乗している場合であっても、事故防止につき中心的な役割を負う者として、右第三者に対して運転の交代を命じ、あるいは運転につき具体的に指示することが出来る立場にあるのであるから、特段の事情のない限り、右第三者に対する関係において、自賠法3条の「他人」にあたらない。
ただ、本件事故において、Xは本件自動車の所有者ではないものの(所有者は会社)、会社から本件自動車を貸与され、会社の業務や通勤に使用するほか、私用にも使うことを許されていたのであり、正当な権限に基づいて自動車を常時使用する者といえる。このようなXは、自動車の所有者と同様に考えてよい。そうすると、Xは、第三者であるA代行社との関係で、特段の事情のない限り(原則として)「他人にあたらない」
Xは、飲酒により安全に自動車を運転する能力、適性を欠くに至ったことから、自ら会社の車を運転することによる交通事故の発生の危険を回避するために、運転代行業者であるA代行社に本件自動車の運転代行を依頼したものであり、他方、A代行社は、運転代行業務を引き受けることにより、Xに対して本件自動車を安全に運行して目的地まで運送する義務を負ったものと認められる。このような両者の関係からすれば、本件事故当時においては、Xの運行支配はA代行社の運行支配に比べて間接的・補助的にとどまっていたものというべきである。したがって、本件は前記特段の事情のある場合に該当し(原則ではない例外的な場合)、XはA代行社との関係において、自賠法3条の「他人」にあたる。
5 判例のポイント
上記判例は、①A代行社が「自己のために自動車の運行の用に供する者」にあたるか、②Xが「他人」にあたるか、という問題についていずれも肯定しました。
つまりは、A代行社が起こした事故によりXが負傷した場合、Xは、本件自動車の自賠責保険会社に対して、保険金を請求できることとなるのです。
これに対して、仮に、Xが飲酒したにもかかわらず、そのまま自分で本件自動車を運転して事故を起こしてしまった場合、Xが怪我をしたとしても、保険金を請求できなくなる可能性があります。さらに、D車を運転するDを怪我させた場合には民事上の責任を負うどころか、Dにけがを負わせたとして刑事上の責任を負うこともあります。
冒頭にも申し上げましたが、飲酒した場合、いくら自分で酔っていないと思っていても自分で運転することは控えてください。飲んだら乗るな。乗るなら飲むな、ということですね。