皆様こんにちは。弁護士の菊田です。

 今回は、運行供用者責任についてのお話をさせて頂きます。

 すでに他の弁護士の記事でも紹介されていますが、運行供用者責任とは、交通事故が発生した場合には、加害者だけでなく、加害者が運転していた自動車の運行供用者も賠償責任を負うとする規定です(自動車損害賠償保障法第3条)。

 そして、ここでの運行供用者とは、その自動車につき運行支配及び運行利益を有する者をいう、とするのが通説的見解です。例えば、友人に自動車を貸して、その友人が交通事故を起こしてしまったような場合には、原則として貸主は運行供用者と認められる傾向にあります。

 もっとも、このような貸主が必ず運行供用者に該当するというわけではありません。実際に、友人に自動車を貸していて、その友人が交通事故を起こしたにもかかわらず、貸主は運行供用者に該当しないと判断された事件があります。その1つが、以下で紹介する、最高裁判所第1小法廷平成9年11月27日判決です。

事案の概要

 自動車の貸主は、友人に対して、2時間後に返還するとの約束で自動車を貸しましたが、その友人は、約束を破り、継続的に自動車を使用していました。貸主は、友人に対して、度々電話をして、車を返還するよう催促しましたが、友人に最初から返還の意思はなく、友人は度々その場しのぎの約束をして、返還を引き延ばしていました。その友人は、貸主が自動車を貸してから約1か月後、交通事故を起こしました。そして、この事件においては、貸主が、上記の運行供用者にあたるかという点が問題とされました。

裁判所の判断

 裁判所は、以上の事実関係のもと

「本件事故当時の本件自動車の運行は専ら友人が支配しており、貸主は何らその運行を指示、制御し得る立場になく、その運行利益も被上告人に帰属していたとはいえないことが明らかである」

として、貸主が運行供用者には該当しないと判断しました。

 おそらく、このように裁判所が判断した理由は、貸主が返還の催促をしても友人からの返還が期待できなかったからではないかと思われます。単に、貸主が返還の催促もせず、友人を放置していたような場合には、返してもらえる可能性があり、貸主は運行を指示、制御しうる立場にあった、とされる可能性はあると思います。