皆さんこんにちは。
今回は、裁判例の紹介をしたいと思います。紹介する裁判例は名古屋地裁平成18年1月20日(自保ジャーナル1649号)です。
この事件では、原告は、脳挫傷等を負い、高次脳機能障害、右動眼神経麻痺の後遺症を負いました。原告は、高次脳機能障害については後遺障害等級として5級が相当で、右動眼神経麻痺の障害と併合して併合4級の後遺障害であると主張して提訴しました。
これに対し裁判所は、高次脳機能障害の後遺障害等級は第7級4号に該当し、右動眼神経麻痺の後遺障害等級が併合第11級に該当し、これらを併合し、併合6級に該当するとの自賠責損害調査事務所長の判断を採用するのが相当であると判断しました。
この判断を前提とすると、逸失利益を算定するための労働能力喪失率は、裁判所の基準によると67%ということになります。
ところが、この判決では、
「原告の後遺障害等級が併合6級に該当するものであったとしても、その記憶力及び記銘力の障害の程度が強いことを考慮すると、実際に一般の就労を果たして、これを維持するには、非常な困難が伴うことが認められる。民事交通訴訟の実務上、後遺障害等級6級の労働能力喪失率は、67%とされる例が多い。しかし、本件においては、通常は5級で79%とされる例が多い労働能力喪失率との間の、ほぼ中間値に近い75%を、原告の労働能力喪失率とするのが相当である。」
と判示しました。
交通事故の損害額を算定するにあたっては、定型化が図られています。というのも、1年間に発生する交通事故の数は膨大なものであり、これらの事件を解決していくためには、定型化された算出方法が必要になるからです。逸失利益を算定するための労働能力喪失率についても、後遺障害等級が何級なら何パーセントという具合にあらかじめ決められています。
しかし、定型化された算出方法も必ずしも絶対的な基準ではありません。本件でも、原告はプログラマーとして元々稼働していたので、事故後復職に向けて自宅でかなりの時間を費やしプログラムの練習を積んだ上で復職しましたが、仕事の内容について記憶を失っており、覚え直すのが難しく、作業時間がかかりすぎるために、部署を変わらざるを得なくなった上、新しい仕事も覚えられず、退職せざるをえなくなったという具体的な事情を考慮したと考えられます。
より高い労働能力喪失率を認めてもらうためにどのような具体的事情を主張すればよいかという点を考察する上でこの裁判例は有益なものといえます。このような裁判例を用いて適正な逸失利益を得るようにしたいですね。
それでは、また。
弁護士 福永聡