皆様こんにちは。弁護士の菊田です。

 本日は、後遺障害に関する事例(名古屋地裁平成17年2月9日判決・自保ジャーナル1603号)を1つ紹介したいと思います。この事例の特徴は、被害者が、事故後に配置転換されて復職しているという点にあります。

事案の概要

 原告は、事故当時、27歳の男性で、会社員でした。原告は、平成10年6月7日、路上の駐車車両の横を歩行中に、対向車線から中央線を越えてきた被告運転車両に衝突されました。この結果、原告には、右上斜筋麻痺、記銘力障害等の後遺症が残りました。

 原告はこの後遺障害について第8級後遺障害等級との認定を受け、これに対して損害保険料算出機構に異議を申し立てたところ、同機構は、神経系統の機能及び精神の傷害につき、自賠責等級第7級4号と認定した上で、原告には併合第6級後遺障害等級相当の後遺障害が残ったものと認定しました。なお、原告は、事故後に、配置転換されて復職しました。

争点

 本件において争われたのは、①原告の後遺障害等級、②基礎収入の認定です。

  ①については、被告は、

 (ⅰ)損害保険料算出機構が、原告の後遺障害を第7級4号と認定したことにつき、原告の主張及び原告が勤務する会社から提出された資料という一方的な主張に基づくものである

 (ⅱ)原告の記銘力障害はある程度の回復が可能であり、一般事務や単純労働であれば他人の援助なくこなすことができるから、原告に第6級の後遺障害が残り、労働能力を67%(第6級後遺障害の労働能力喪失率は67%と規定されていました。)喪失したという損害保険料算出機構の認定は実状にそぐわない

との主張をしました。

 ②については、原告が事故前の年度であるである平成9年度の源泉徴収票を裁判所に提出できなかったこと、事故年度には入通院等により欠勤をしていること、その後も配置転換によって収入が減少していることから、何を基準にして原告の基礎収入を認定すべきなのかが問題となりました。なお、原告の収入は、平成10年度は約136万円、平成11年度は約144万円、平成12年度は約278万円でした。

裁判所の判断

 裁判所は、争点①については、

 原告に注意力障害、分配的注意の傷害を認め、2つ以上のことを同時に行う上で困難があること、記銘力障害、言語性記憶障害が認められること、原告が勤務する会社の社長が、原告の後遺障害により仕事に支障が出ていることを具体的に述べていること、これらの事情は医師の検査結果等にも整合することから、原告には後遺障害等級併合第6級に相当する後遺症が残り、その労働能力喪失率を67%喪失したものと認めるのが相当である

 争点②については、

 原告が本件事故後入通院により欠勤していたこと、配置換えにより収入が減少していることから、上記の平成10年度~12年度の収入を事故当時の収入と認めるのは相当でないとしました。その上で、原告が、事故当時健康な27歳の男性であったこと、及び仕事上問題があったことをうかがわせる事情もないことから、原告の基礎収入を、賃金センサスにおける27歳平均賃金の8割である339万9680円

と認定しました。

 このように、裁判所は、原告が復職しているからといって、労働能力喪失率の割合を減らすということはしませんでした。また、源泉徴収票が提出できないからといって、事故後の年収を基準にすることもありませんでした。被害者の実状をきちんと汲み取ってあげた判決なのではないかと個人的には思います。