交通事故の法律相談で、「保険会社から治療費の支払を打ち切ると言われています」といったお話は非常に頻繁に耳にします。
 一方で、1年以上にわたって整形外科や整骨院の治療を継続しており、その治療費をすべて保険会社が立て替えてくれているようなケースもないわけではありません。

 一見、そんな長期間にわたって治療費を見てもらえるなんて、何てラッキーなんだ!と思われるかもしれません。
 しかしながら、このような事案では、示談交渉の際に思わぬ落とし穴が待っている可能性があるのです。

 賠償を請求する側に過失がある場合、過失相殺が問題となることは皆さんもご存じかと思います。
 過失相殺といえば、一般に「こちらが悪い分だけもらえる金額が少なくなる」という程度に考えておられる方が少なくないかもしれません。過失がなければ100万円の賠償金を受け取ることができるところ、過失割合が7:3だから、実際に受け取れる額は70万円だけ。そんな具合です。

 しかし、過失相殺というのは、「損害の全額」に対して当てはめられるのが原則です。交通事故において、治療費は当然ながら「損害」のひとつ。そうすると、治療費が多ければ多いほど、加湿相殺によって減額される賠償金は大きくなっていきます。

 先ほどのように、過失割合が7:3とされる場合を考えてみましょう。

 損害額が総額で100万円であれば、確かに受け取ることのできる金額は70万円。
 ところが、それ以外に治療費が200万円かかっているとすれば、損害額の総額は300万円。
 この全額について過失相殺がなされるため、請求できる賠償額は210万円。
 そのうち治療費として既に200万円が保険会社から医療機関に支払われているので、実際に受け取ることのできる賠償金はたったの10万円にとどまってしまいます。

 そして、そのような結果を招く重要な問題であるにもかかわらず、治療費の一括支払を受けている被害者は、実際にかかっている医療費がいくらなのか、正確に把握できないことが少なくない。
 このため、被害者が想定しないような形で、最終的な支払額が大幅に減額されてしまうことがままあるのです。

 このような結果を回避するため、とり得る方法のひとつが、健康保険を使って治療を受けることです。
 交通事故によるケガの治療には健康保険が使えないと考えられがちですが、「第三者行為による傷病届」の届出をすることで、保険証を提示して治療を受けることが可能になります(医療機関によっては、まれにそのような対応を拒否されるケースもあるようですが・・・)。
 普段病院に通うときと同様、3割の自己負担が生じますが、総額ベースでも保険会社による一括支払の半額程度に治療費を抑えることができるため、過失相殺によって減額される賠償額が少なくなります。

 もちろん、当方の過失割合を少なくする交渉が重要なのは言うまでもありません。しかし、いくら弁護士が介入したからといって、そもそも負うべき過失の一切をゼロにすることが不可能なのも当然です。最終的に少しでも望ましい結果に結び付けるためにも、保険会社と過失でもめそうになったら、早めに専門家へとご相談くださいね。