交通事故事件において、「過失割合」の交渉は弁護士の腕の見せ所の1つです。
 相手方の過失としては、わき見運転等の著しい前方不注視や速度制限違反の過失などがあり、各事故において適切な過失を選び出し主張するのです。

 先日、私の担当する事件で、相手方に制限速度違反の過失が疑われる交通事故がありました。
 速度制限違反が疑われるといっても、手元の資料としては事故後に警察が作成した実況見分調書があるのみでした。

 では、事故時に時速何キロで走行していたかはどのように考えるのでしょう。
 実況見分調書にはそのヒントが数々あり、車両の写真が添付されていれば車両損傷状況やブレーキ痕、滑走の長さによって制限速度違反を立証することができます。今回は滑走の長さから制限速度違反を立証する方法を述べていきます。

 停止するまでには、運転者が危険を感じてからブレーキを踏み、ブレーキが実際にきき始めるまでの間に車が走る距離(空走距離)と、ブレーキがきき始めてから車が停止するまでの距離(制動距離)とを合わせた距離(停止距離)を必要とするので車は急には止まれません。

<停止距離=空走距離+制動距離>

 運転者が疲れているときは、危険を認知して判断するまでに時間がかかるので、空走距離は長くなりますし、雨に濡れた道路や雪が積もった道路を走る場合は制動距離が長くなります。

 それでは空走距離と制動距離についてどのように計算するのでしょうか。

 空走距離は簡単ですね。
 空走距離というのは、運転者が危険を感じて急ブレーキが必要と判断した時点から、アクセルペダルから足を動かし、ブレーキペダルに足を乗せ、これを踏み込んでブレーキが効き始める時点までの距離です。
 これを数式で表すと、次のようになります。

<空走距離=反応時間(秒)×制動前の車速(m/秒)>

 反応時間は裁判例によると、通常人で約0.8秒くらいとなります。

 では制動距離はどうでしょうか。
制 動距離というのは、ブレーキがきき始め、自動車が完全に停止するまでの距離です。
 これは数式の導き方は分かりませんが、次のようになります。

<制動距離=制動前の時速(㎞/時)の2乗÷(254×摩擦係数)>

 摩擦係数は、乾いたアスファルトでは0.7、濡れたアスファルトでは0.4程度で考えます。

 上記のような方法で、空走距離及び制動距離を出して、停止距離を導き出します。

 実況見分調書には、加害車両の運転者が危険を感じて急ブレーキが必要と判断した時点と最終的にその自動車が停止した時点を記載されていることが多く、それによって停止距離を出して、制動前の時速を推測することになります。

 制限速度違反の過失はその程度に応じて、1割から2割の減算修正をかけることができる要素となります。

 このように、資料が少なくても、丁寧に分析すれば交渉の要素は出てくるものです。
 弁護士法人ALGの弁護士は過失割合の交渉においても被害者にとって最大限有利に進めますので、過失割合にお困りの際は一度ご相談下さい。