本日は、少し趣向を変えて、婚姻中に交通事故に遭い、その後離婚した場合、受け取った損害保険金を別れた相手方に渡さなければならないのかが争われた裁判例(大阪高裁平成17年6月9日決定)を紹介したいと思います。
事案の詳細は以下の通りです。
夫となる相手方(以下「Y」といいます。)は、妻となる申立人(以下「X」といいます。)と結婚しましたが、外傷性くも膜下出血、右下肢粉砕骨折、外傷性視野障害等の重傷を負い、身体障害者5級の認定を受ける交通事故に遭いました。Yは、交通事故による損害保険金として、交通事故の加害者側の任意保険会社から、休業損害1560万円(既払い)の他、逸失利益4673万5510円、傷害慰謝料248万9200円(内、100万円が既払い)及び後遺障害慰謝料460万2780円の総額5200万円を受け取り和解しましたが、Yが損害保険金を受け取った約半年後にXとYは離婚してしまいます。その後、Xが損害保険金の半額である2600万円の分与を求めて裁判所に審判を申立てました。
本決定以前の裁判例には、自賠責保険から支払われた保険金全体について財産分与の対象としたものがあり(大阪地判昭和62年11月16日判決)、左記裁判例に従うと、Xの請求は認められそうです。
しかし、本決定は、保険金全体ではなく、損害項目ごとに検討し、逸失利益に対応する部分は、配偶者の寄与がある以上、財産分与の対象になるが、傷害慰謝料及び後遺障害慰謝料に対応する部分はYの特有財産であり、財産分与の対象にならないと判断しました。
逸失利益は、後遺障害がなければ将来得ることができたであろう利益(収入)を、現在の額に引き直して一括払いされたものです。したがって、逸失利益は、配偶者の寄与が認められる限り、夫婦の共有財産となり、財産分与の対象となると考えます。なお、離婚すると配偶者の寄与はなくなるため、財産分与の対象となる逸失利益の期間は、症状固定時から離婚成立の前日までとなります。
一方、慰謝料は、被害者本人の精神的苦痛を慰謝するものですから、配偶者の寄与は観念できません。したがって、婚姻中の夫婦の生活の原資となるべきものではなく、本決定の結論は妥当なものであると考えます。