こんにちは。今年3月に富山県の北陸自動車道で発生した、運転手を含め2人が死亡し、重軽傷者24人を出した交通事故のニュースは記憶に新しいかと思います。その後、死亡した運転手は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の簡易検査で要経過観察状態と診断されていたことが判明しました。

 睡眠時無呼吸症候群の症状としては、日中、耐え難い睡魔に襲われ、居眠りがちになることが知られていますが、中には、眠気を催すことなく、突然睡眠状態に陥ることがあるといわれています。運転手が突然、睡眠状態に陥った場合、運転手に事故前に眠気を催す等、居眠運転の予兆があったにもかかわらず、その時点で運転を中止しなかったという過失責任を問うことは難しくなり、罪に問うことができません。

 この点、裁判例では、睡眠時無呼吸症候群に罹患していた運転手が対向車線を70メートル以上進行し、ノーブレーキで被害車両に衝突した事案において、裁判所は、予兆なく急激に睡眠状態に陥っていた可能性を否定できないとして、前方注視義務を課することには合理的な疑いの余地が残るとして、無罪を言い渡したものがあります(大阪地裁平成17年2月9日判決)。

 被告人は、事故前日に約7時間にわたり睡眠をとっており、起床時にも、特に前夜の疲れや体のだるさを訴えておらず、事故直後からほぼ一貫して、事故直前の記憶が全くないと供述していました。事故態様としても、センターラインを超えて対向車線内に入った後、約4秒間にわたり、74メートルも対向車線上を進行しており、一瞬のわき見や考え事等による前方不注意とは考えられないものでした。

 もっとも、睡眠時無呼吸症候群に関する裁判例の多くは、眠気を感じながら運転を中止せず、漫然と運転を継続したこと等を理由に、被告人の過失を認めています。

 睡眠時無呼吸症候群の現在の潜在患者数は200万人以上とも言われています。睡眠時無呼吸症候群が原因の事故は重大な結果を引き起こすものが少なくないため、運転される方は、自身の健康管理にも配慮していただけたら、と思います。