平成26年5月20日、悪質な自動車事故の罰則を強化した「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(通称:自動車運転死傷行為処罰法 以下「新法」といいます。)が施行されました。

 新法が施行される前の自動車による死傷事故に対する罰則は、「危険運転致死傷罪」と「自動車運転過失致死傷罪」があり、刑法に規定されていました。新法は自動車事故の罰則を刑法から移行するとともに、新たな類型を加え、悪質な自動車事故の罰則を強化しています。

 新法が制定される契機となったのは、平成23年4月に鹿沼市で発生した、クレーン車事故でした。事故の内容は、集団登校中の児童らにてんかんの発作により意識を失った加害者が運転するクレーン車が暴走・衝突し、児童6人が死亡したというものです。クレーン車の運転手は、てんかんの持病があり、これまで何度もてんかんの発作による事故を起こしていたにもかかわらず、持病を隠し続け、車の運転を続けていました。

 世論では、最高刑期が20年である危険運転致死罪での処罰を求める声もあがりましたが、当時の危険運転致死罪には、てんかん等、正常な運転に支障が生じうる病気による事故態様が規定されていませんでした。したがって、加害者は、最高刑期が7年である自動車運転過失致死罪にて起訴され、懲役7年の実刑判決が確定しましたが、児童の遺族らからは、6人の命を奪いながら、懲役7年というのは、軽すぎるとして、悪質で危険な運転による死傷事故の罰則強化を求める声があがっていました。

 その後も、亀岡市で無免許運転を繰り返し、居眠り運転で10名もの死傷者を出した事故が発生するなど、危険かつ悪質な運転による死傷事故に対する批判が強まり、新法の施行に至ったのです。

 新法では、危険運転致死傷罪に新しい類型が加わり(新法3条)、一定の病気により正常な運転に支障が生じうる状態で人を死傷した場合も処罰されうることになりました。一定の病気とは、①統合失調症、②てんかん、③再発性の失神、④低血糖症、⑤そう鬱病及び⑥重度の睡眠障害とされており、今後、てんかんの発作による事故も危険運転致死傷罪で処罰されうることになります。