皆様こんにちは。弁護士の菊田です。

 今日は、交通事故に関する刑事上の責任についてお話しします。

 交通事故の場面で関係してくると思われる犯罪としては、多いものとしては、人身事故だと①業務上過失致死傷罪(刑法211条1項)、②自動車運転過失致死傷罪(同法211条2項)、③危険運転致死傷罪(同法208条の2)、物損事故だと④器物損壊罪(同法261条)や⑤建造物損壊罪(同法260条)といったところだと思います。テレビのニュース等で知っている方も多いのではないでしょうか。

 この中の、④器物損壊罪や⑤建造物損壊罪はイメージがつく方も多いかとは思いますが、①②③については、具体的に何が違うの?と思っておられる方もおられるのではないかと思います。

 そこで今回は、上記①②③の規定について説明したいと思います。

 まず、①②③についての法定刑を見てみると

① 5年以下の懲役若しくは禁錮または100万円以下の罰金
② 7年以下の懲役若しくは禁錮または100万円以下の罰金
③ 人を負傷させた場合・・・15年以下の懲役
  人を死亡させた場合・・・1年以上の有期懲役

となっています。

 なお、懲役と禁錮とは、両者とも、刑事施設に入れさせられる刑罰ですが、懲役の場合は作業が課せられるのに対し、禁錮は作業を課せられないという点において違いがあります(刑法12条2項、同13条2項)。刑法上は、懲役の方が重い刑であると規定されています(刑法9条)。

 また、③で「1年以上」とされていますが、これは無制限というわけではなく、有期懲役については、原則として20年が上限とされています(刑法12条1項)。ただし、再犯(刑法57条)の場合等には、最大で30年まで上限が増えます。
 罰金とは、その名の通り罰金であり、罰金刑の宣告を受けた人は、宣告を受けた額を支払う必要があります。

 上記の①②③を比較すると、①が1番軽く、③が1番重い刑であるといえます。

 このように複数の規定が設けられているのは、以下のような経緯によるものです。

 以前、交通事故を対象にした刑法の規定は存在しておらず、交通事故によって人を死亡あるいは負傷させた人は、①の業務上過失致死罪あるいは業務上過失致傷罪で処罰されていました。この①の規定は、交通事故に限定されて適用される法律ではなく、例えば、医療過誤で人を死亡させてしまったようなケースでも適用されうるものです。

 しかし、①は、上で見たように、懲役5年が上限であり、飲酒運転により人を死亡させる等の悪質な交通事故については、懲役5年では軽すぎるのではないか、という議論がされるようになりました。

 そこで、平成13年に、③の規定が新たに追加されました。
 ③の規定は、交通事故の中でも悪質なものを対象としたもので、

(ⅰ)「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させ」

(ⅱ) 「その進行を制御することが困難な高速度で、又はその進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させ」

(ⅲ) 「人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で四輪以上の自動車を運転し」

(ⅳ) 「赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で四輪以上の自動車を運転し」

といった行為によって、人を負傷あるいは死亡させた場合に適用されるものです。

 もっとも、この③の規定は、人を死亡させた場合には最大で懲役20年、負傷させた場合であっても最大で懲役15年という厳罰が科されるだけあって、成立要件は厳しいものとなっています。例えば、(ⅰ)は飲酒運転というだけでなく、「正常な運転が困難な状態」である必要がありますし、(ⅳ)についても、単に信号無視というだけではなく、「重大な交通の危険を生じさせる速度」という要件をみたす必要があります。

 このように、③の規定により処罰されるのは相当悪質な事案に限定されることになります。しかし、③に該当しないからといって、①で、懲役5年以下で処罰するのは軽すぎる事案というのも考えられます。そういった事案に対処するために、平成19年に新たに追加されたのが、②の規定です。

 以上が、①②③という複数の規定が設けられた簡単な経緯です。国民の交通事故に対する意識が高まった結果といえますね。