1 ご挨拶

 はじめまして、弁護士の伊藤と申します。これから、本ブログを他の当所所属弁護士とともに担当します。

 日頃、交通事故相談業務を担当している弁護士としての視点で記事を書いて参りたいと考えていますので、しばしお付き合い頂ければ幸甚です。

2 ひき逃げ被害者の救済

(1) 交通事故総論

 交通事故の発生件数をみると、近時、酒気帯び運転の厳罰化・取締強化[1]などを背景として、趨勢的には減少傾向[2]にあります。

 しかしながら、交通事故は、現在でも、1000人に6人[3]もの方が当事者となっており、一般市民が日常生活の中で直面しうる身近なトラブルといえるでしょう。

(2) ある日「ひき逃げ事故」の被害者となってしまったら・・・

 運悪く、その1000人の中の6人に被害者として入ってしまった場合、その事故によって生じた損害について、加害者に対して賠償を求めるのが原則です。

 しかし、交通事故の中には、事故を起こした自動車が逃走してしまう、いわゆるひき逃げ事故[4]もあります。ひき逃げ事故の場合、被害者の方は、加害者も加害車両も知ることができません。

 ひき逃げ事故に遭った被害者の方が、治療費用などの損害を回復するためには、どのようにすればよいのでしょうか。

(3) 自動車損害賠償保障法71条に基づく請求

 このような場合に役立つ制度として、自動車賠償責任補償法(以下「自賠法」といいます。)71条に基づく請求があります。

 自賠法71条は、ひき逃げ事故又は無保険(無共済)車による事故の被害者の救済を目的とした規定[5]であり、ひき逃げ事故の被害者の方が、同条に基づいて、政府に対して請求すれば、「政令で定める金額の限度において、その受けた損害」の「てん補」を受けることができるというものです。

 そして、「政令で定める金額」として自賠法施行令20条・2条は、死亡した者一人につき3000万円、死亡した者で死亡に至るまでの傷害による損害につき120万円、傷害を受けた者一人につき120万円などと規定しています。

[1] 例えば、浅見健次郎「量刑に関する諸問題[大阪刑事実務研究会] 第2量刑諸要素の検討 Ⅰ犯情に関するもの 4飲酒酩酊・薬物中毒状態下における犯罪と量刑」(判例タイムズNO.1195–40頁)など。
[2] 交通事故の発生件数(年間)は、平成16年の95万2191件をピークとして、平成17年以降一貫して減少を続け、平成22年には72万5773件となっている(警察庁「交通事故発生状況 年報」)。
[3] わが国の総人口127510千人(平成21年。総務省統計局「日本の統計」第2章人口・世帯 2– 1人口の推移と将来人口)に対して、平成21年の事故発生件数は73万7474件(警察庁「交通事故発生状況 年報」)。
[4] 平成19年のひき逃げ事故は、1万5474件発生し(「犯罪白書 平成20年版」第1編第3章第1節)、その年に発生した交通事故のうち約1.9%を占めた。
[5] 国土交通省自動車交通局保障課「改訂 逐条解説 自動車損害賠償保障法」219頁。

弁護士 伊藤蔵人