先ほども申し上げたように、人身傷害保険と損害賠償保険は性質の異なる保険です。したがって、人身傷害保険による支払を受けていたとしても、損害賠償保険からの支払が受けられないわけではありません。上記のようなケースであれば、人身傷害保険によってカバーされなかった損害については、別途相手方の損害保険に対して賠償を請求することができます。

しかし、ここで注意しなければならないのは、人身傷害保険を先行させた場合に、人身傷害保険の保険会社が被保険者に対して、いわゆる「人傷先行協定」を結ぶよう求めてくることが少なくないということです。

 人傷先行協定は、人身傷害保険による保険給付がなされた事実とその金額を確認するものですが、その協定のなかに、損害賠償請求権を保険会社に移転するとの旨の条項が含まれていることがあります。人傷と損賠の二重取りを防ぐ趣旨の規定ではありますが、これが人傷支給額をこえて全額の移転について確認するような文言になっていると、事故による損害が填補されていないにもかかわらず、自ら相手方保険会社に損害賠償を請求することができないという事態に陥りかねません。

 人身傷害保険の保険会社から協定書を巻くように求められたときは、必ずその内容について、綿密にチェックするのが無難でしょう。