北陸道で先日、夜行高速バスによる痛ましい事故が起きてしまいました。
 亡くなった方は、震災の影響で家族別れ別れに暮らされていたとのこと。
 ご家族の悲痛な胸の内は、察するに余りあります。

 実は私、大型バスの運転免許を持っていまして、昔はよく大勢の人を乗せて高速道路を走ったりもしたものです(弁護士になるよりもずっと前の話です!)。ハンドルを握る以上、責任の重さは軽自動車でも大型バスでも変わりはないのですが、それでも満員の乗客を乗せて運転するときは少なからず緊張感を持っていましたし、目的地に着いたときは満足感とともに結構な疲労を感じたように記憶しています。バス事故が生じ、運転手の過労が問題とされるたびに、そんな自身の経験を振り返って、ただただ運転手だけを責められないよなぁ、と思ってしまいます。

 さて、今回の北陸道の事故では、運転手が「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」だったのではないかと言われています。報道ではこの疾病が交通事故の直接の原因であるとして論じているようなものもありますが、昨年、交通事故がSASによって生じたものであるとして、無罪となった刑事事件の判決が出されています(千葉地判平成25年10月8日)。この判決では、運転手は事故直前、SASによって強い眠気に襲われ、事故時は突発的な意識障害に陥っており、信号を守る義務を果たせなかった可能性があるとして、過失が認められなかったのです。

 少し前には、運転中にてんかん発作を起こして交通事故が発生するという事例が多く報道され、昨年の道路交通法改正の一つの契機となりました。このようなケースでも、運転時に意識障害を来たしていたような場合は、自動車運転過失致死傷罪の成立が認められないケースも少なくないと考えられます(だからこそ、道交法によって、そのような疾病に罹患した人の運転自体を犯罪として規定したわけです)。

 もちろん、刑事責任が否定されたとしても、民事上の損害賠償請求権が消長を来たすわけではありません。刑事事件における「過失」と民事上の「過失」がそもそも考え方を異にするものであることはご存知の方も多いでしょう。交通事故の事案では、そもそも自動車を運転する行為が一定の危険を内包しているという考え方が前提にあるため、被害者側に過失がないにもかかわらず、加害者側の過失を観念できないとして損害賠償の請求が不可能となるようなケースは極めて稀だと思います(むしろ過失の点で問題となるのは、責任の負担を検討するための過失割合でしょう。その限りでは、100:0の事案で損害賠償請求が棄却される可能性は当然存在します)。

 また、仮に運転手が全く無過失であると評価される事案であったとしても、被害者側に責められるべき落ち度がないことが証明できれば、自賠法3条に基づく運行供用者責任を追及することが可能です。このような事案がレアケースであることは間違いありませんが、相手方が無過失を理由に損害賠償金の支払を拒んでくるような場合には、交通事故に詳しい弁護士の力を借りるのが無難だと思います。