こんにちは。今回は、平成23年10月18日横浜地方裁判所判決についてお話をしたいと思います。

 事案は、時速40キロメートルで普通貨物自動車を運転していた加害者が、歩道上で信号待ちをしていた被害者に衝突し、死亡させたというものです。被害者は当時14歳でした。本事案では、加害者勤めていた会社の代表取締役(以下「父親」と言います。加害者が勤めていた会社は、家族経営の会社であり、代表取締役は加害者の父親でした。)に使用者責任(民法715条)を追求できるかが争われました。

 加害者は、てんかんの疾患を有しており、医師から発作を抑えるための薬を処方されており、服用するよう指導されていました。しかし、加害者は薬を服用することなく運転し、上記の事故を招きました。加害者は、薬を服用していない状態での自動車の運転を控えるべき自動車運転上の注意義務を負っていたところ、薬を服用しなくても、てんかんの発作は起こらないと軽信し、漫然と運転を開始した点に過失が認められます。

 加害者は、過去に、仕事先で突然意識を失って病院に救急搬送されたことや、運転中にてんかんの発作で意識を失ったことがありました。父親は、加害者が仕事先で意識を失って救急搬送されたこと及び物損事故を起こしたことは知っていましたが、てんかんの薬を処方されていることは知りませんでした。また、事故の前日に、加害者が体調を崩し、おう吐していたことを認識していました。

 このような事情の中、判例は、父親の使用者責任を認めました。父親は、救急搬送されたことや、物損事故を起こしたことを知っていたのであるから、その原因がてんかんであるということまで正確に認識していなかったとしても、加害者が自動車の運転をするにあたって、意識を失うことがありうることは認識していたといえること、加害者が意識を失った原因等を究明し、医師の助言に従い、一定の要件の基に運転を認めるなどの措置を執るべきであったとされています。

 父親は、年1回の健康診断を受けさせていましたが、十分な措置ではなく、「監督について相当の注意をした」とは言えないと判示しています。

 交通事故の被害者及び加害者を生み出さないためにも、従業員の体調に異常を認めた場合、使用者としては具体的な措置を執る必要があるといえます。

 なお、被害者は、プロのイラストレーターになる夢があり、それを断たれた無念さは察するに余りあるとして、慰謝料の増額がなされています。