皆さんこんにちは。

 今回は、裁判例の紹介をしたいと思います。紹介する裁判例はさいたま地裁平成18年10月18日(自保ジャーナル1675号)です。事案は以下のようなものです。

 原告が、歩道上を歩行していたところ、被告がアクセルとブレーキを踏み間違え、かつハンドル操作を誤り逸走、歩道に乗り上げ原告に衝突し、原告は自賠責1級1号認定の後遺障害を残したという事案です。

 判決では、将来の介護費用1年分を、平日240日分については「職業付添人の実費」1日当たり2万7875円で、残りの公休125日分については近親者付添費用として1日当たり8000円で計算し、その余命年数分の介護料を認めました。

 将来の介護費用について、加害者側の反論として、現実に介護保険給付を受けている部分については損益相殺の対象となり損害額から控除されるのであるから、将来介護費として平均余命までの介護費用が請求された場合も、介護保険制度を利用することにより廉価でサービスを受けられるので現状の職業介護料を基準に介護料を算出することは相当ではないと主張されることがあります。

 これに対し判決は、介護保険は、障害者を保護するための制度であり、これを利用するかどうかは、その障害者の側で選択すべき問題であるから、現に介護保険の適用を受けていない被害者に対し、加害者が、介護保険の適用が受けられるから全額の損害賠償は認められない旨の主張をすることは許されないと判断しました。

 確かに現実に介護保険給付を受けることが確定していない部分については、将来において介護保険制度が維持されるか確実ではないことからすれば、損害額から控除すべきではないと思います。
 しかし、介護保険制度の発達により将来も現在と同様の給付内容、水準が維持されることが見込まれ、介護保険制度の存続自体が確実といえるような段階になれば、介護保険給付を得ることも確実といえるので、損害額から一部控除される可能性はあるかもしれません。

 いずれにしろこの判決からは、将来の介護費用について、介護保険給付が見込まれることを理由とする減額の主張は認められにくいようですね。加害者側からこのような反論があるときはこの裁判例を使って適切に反論するようにしましょう。

 それでは、また。

弁護士 福永聡