皆様こんにちは。弁護士の菊田です。
前回は、後遺障害による逸失利益についてお話ししました。
(前回の記事はこちら:後遺障害による逸失利益について)
今回は、この点に関連して、労働能力喪失率についてお話ししようと思います。
労働能力喪失率とは、簡単に言えば、後遺障害のない人の労働能力を100%として、そのうちの何%が後遺障害によって失われているか、という問題です。
労働能力喪失率は、後遺障害による逸失利益を算定する際の考慮要素の1つです。具体的には、以下のような形で考慮されます。
後遺障害による逸失利益
=(年収額)×(労働能力喪失割合)×(労働能力喪失期間)―(中間利息)
この計算式を見ればわかるように、労働能力喪失率の認定は高ければ高いほど賠償額も高額になります。そのため、労働能力喪失割合は、損害額の算定に大きく影響する要素であるといえ、交通事故による損害の賠償を求めるにあたり、重要な要素になってきます。
では、この労働能力喪失率はどのように算定するのでしょうか。
労働能力を具体的に何%失ったか、という問題は、そもそも労働能力自体が数値化するのは困難であることから、当然、労働能力喪失割合の算定も、非常に難しい問題です。
そのため、現在は、後遺障害の等級によって、労働能力喪失割合が何%失われたのかという基準が、自動車損害賠償保障法施行令(昭和30年政令第286号)の別表第1及び第2において設けられています。
ちなみに、具体的な数字を言うと、平成18年4月1日以降発生した事故に適用される基準では、
第1級~第3級 100%
・・・(省略)・・・
第14級 5%
となっています(別表第2)。
この後遺障害の等級は、後遺障害が重ければ重いほど、数字の小さい等級に該当します。例えば、平成18年4月1日以降に発生した事故に適用される基準では、両眼の失明であれば第1級に該当しますが、片眼が失明するにとどまった場合には、第8級に該当します。
なお、この基準は、事故の発生した時期によって、どの後遺障害が第何級に該当するのか等、その内容が若干異なりますので、ご注意ください。
実際の裁判でも、この基準をベースにして、労働能力喪失率が認定されます。
しかし、この基準はあくまでベースにすぎず、事案によっては、裁判所がこの基準と異なる労働能力喪失率を認定することがあります。
前回ご紹介させて頂いた事例はまさにそのような事例でした。
前回の事例は、被害者が第4級後遺障害に該当し、基準によれば労働能力喪失率が92%認められるにもかかわらず、被害者がデザイン関係の会社に勤務しており、そのデザイン能力は落ちていないことを理由として、基準よりも低い85%労働能力喪失率を認めたものでした。
そして、この事例とは逆に、基準よりも高い労働能力喪失率が認められた事例もあります。
次回は、このように、基準よりも高い労働能力喪失率が認められた事例をご紹介させて頂きます。