将来介護費用は、通常、介護を要する後遺障害を負った場合に認められます。介護を要する後遺障害とは、主に自賠責後遺障害の別表第1の1級及び2級の場合(神経系統の機能又は精神、若しくは、胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に(又は随時)介護を要する場合。)を指します。
将来介護費用については、将来介護サービスの料金が変動する可能性がある中でどのようにして介護費用を算定すべきかといったことや、職業介護と親族介護とで算定額に差異を設けるべきか否かといったことが問題になることがあります。
そして、これらの問題を扱った裁判例として、福岡地裁平成17年7月12日判決があります。
事案は、69歳女子主婦の原告が、青信号横断歩道を歩行中、被告運転、被告会社所有の普通貨物車が右折してきて衝突、脳挫傷等で長期間入院した後、重篤な高次脳機能傷害等1級1号後遺障害を残したというものです。原告を介護できる近親者は長男のみであったところ、長男は、日曜日以外の毎日、午前8時に出勤し、午後8時に帰宅していました。原告は、平日・土曜日の午前10時から午後3時30分までデイサービスを受け、それ以外の時間帯は、長男による介護を受けていましたが、長男の負担軽減等を図るべく、午前8時から午前10時までと午後3時30分から午後8時までの間は、職業介護人による訪問介護を実施することにしました。
このような事案の下、裁判所は、将来介護費用に関し、下記のとおり判断しました。
⑴ 平日・土曜日のデイサービスが行われる時間帯(午前10時から午後3時30分までの5時間30分)の介護費用
→デイサービスに要した実費全額を損害と認めました。
⑵ 平日・土曜日の職業介護人による訪問介護が行われる時間帯(午前8時から同10時までと午後3時30分から同8時までの合計6時間30分)の介護費用
→現時点で利用可能な介護サービスを使用する場合に要する実費を基礎として将来の介護費用を算定すべきであるとして、日額2万5392円と認定しました。
⑶ 平日・土曜日の⑴⑵を除く残りの時間帯(午後8時から午前8時までの12時間)の介護費用
→近親者付添費として、日額4000円と認定しました。
⑷ 日曜日の長男による24時間体制での介護
→近親者付添費として、日額8000円と認定しました。
⑸ そして、最終的に、被告(加害者)が支払うべき将来介護費用の総額は、約1億1236万円であると認定しました(原告の請求額は約1億5100万円)。
上記⑴⑵の職業介護人による将来介護費用については、被告(加害者)側から、将来介護サービスが変化・充実化することにより、現在よりも廉価で介護サービスを利用できるようになる可能性がある旨の主張がなされました。
しかし、裁判所は、今後、より廉価で介護サービスを利用できるようになる具体的な見込みがあることを認めるに足りる証拠はないとした上で、「現在点で利用可能な介護サービスを使用する場合に実際に要する費用を基礎として将来の介護費用を算定」すべきであるとしました。
これは、裏を返せば、将来、介護サービスの料金が安くなる具体的見込みがあることを立証できれば、その安くなる時点から、廉価な料金を基準として将来介護費用を算定する可能性があることを示唆するものと言えるでしょう。
また、上記裁判例は、職業介護人による介護と長男による介護とで、介護・付添費用の額に差異を持たせていますが(前者の方が高額)、この点について、上記裁判例は、近親者による介護は、介護のプロとして専門的サービスを供給する職業的介護との質的な違いがある以上、金額に差が生じるのはやむを得ないと判断しています。