こんにちは。今回のブログは交通事故により高次脳機能障害を負った被害者について常時介護者が付き添う必要があるとして、日額1万円の介護料を認めた裁判例をご紹介します。

 高次脳機能とは、視覚や聴覚等の各感覚系から情報に基づく広い意味での知識に基づいて行動を計画し、実行する精神活動であり、ここには知覚、学習、記憶、概念形成、判断、言語活動、抽象的思考等が含まれるとされています(藤村和夫・山野嘉朗『概説交通事故賠償法』(新版)231頁・2003日本評論社)。

 このような高次脳機能に起きる障害を高次脳機能障害と呼びますが、高次脳機能障害の典型的な症状は認知障害と人格変化であるとされています。

 裁判例(横浜地裁平成18年5月15日判決・自動車保険ジャーナル1662号)における原告(男性)は交通事故により高次脳機能障害を負い、性的逸脱行為、暴力、暴言等の突発的な問題行動をとるようになっていました。

 まず、原告は突発的な問題行動(性的逸脱行動、暴力、暴言等)を除くと、食事や歩行の身体的介助等の身体面での介助はさほど必要はないという状態で、食事の支度や服薬指示に常に介護が必要であるという状態でした。

 しかし、原告の通っていた団体の活動記録には、原告は、女性に対し、キスをする、抱きつこうとする、触る等の性的逸脱行動をした旨の記載、また、他の利用者に対し、突き飛ばしてけがをさせる、突き飛ばす、蹴る等の暴力に及んだ旨の記載、他の利用者に対し、「じじい、死ね」等の暴言を言ったりした旨の記載が頻回に現れていました。
 また、原告は、リハビリセンターにおいて、女性職員や女性の通所者に対して、胸をつかむなどの性的逸脱行為をしたことにより、通所を禁じられたことがありました。

 本判決は、原告が外出して社会と接触を持つ場面においては、突発的な問題行動(性的逸脱行動、暴力、暴言等)があり得るため、これに備えて、介護者が常に付き添い、適時適切な声かけ、指示、抑制等を行うことが必要であると判断した上で、原告に必要とされる介護は、適時になされるものであるから、常時の介護でなく随時の介護というべきものであるが、原告の日常生活上必要とされる介護がいつ必要とされるか、また外出時における問題行動がいつ生じるかという予測は困難であるから、これに備えて常時介護者が付き添うことが必要であると言わざるをえないと判断しました。

 本判決の立場からは、常時の介護を要する障害ではなくても、介護のために常時介護者が付き添う必要があるような場合には、常時付き添いの必要性は認められます。すでに述べましたが、高次脳機能障害の典型的症状の一つは人格変化であるとされており、人格変化に伴う問題行動を抑制するために、常時介護者を要するというケースは少なくないと思われますので、本裁判例をご紹介しました。