初めまして。
 2月から当事務所にて勤務しております、弁護士の菊田です。

 この度、当職はこの交通事故のブログを担当する運びとなりました。
 このブログが少しでも皆様のお役に立てば幸いです。

 今回は、「被害者側の過失」と呼ばれる問題についてお話をしようと思います。

 この問題は、過失相殺という制度にまつわる問題です。  過失相殺とは、被害者側にも落ち度がある場合に、その落ち度の割合に応じて、加害者の賠償額を減額するという制度です。この落ち度を「過失」といいます。
 例えば、自動車を運転していて、赤信号で交差点に突入し、他の自動車と衝突してしまった場合に、その衝突された側の自動車の運転手が、居眠り運転をしていたようなケースで、過失相殺の制度が使われます。このようなケースでは、被害者である衝突された側の運転手にも過失があるといえるので、その運転手に支払われる賠償額が減額されます。
 なお、交通事故の話題になったときによく出てくる「過失割合」という言葉は、この過失相殺がされる割合のことをいいます。

 では、このケースで、衝突された自動車の助手席に、被害者の奥さんが同乗していた場合には、奥さんに対する賠償額も減額されるでしょうか。

 落ち度があったのは夫なのだから、奥さんに対する賠償額が減額されるいわれはない!と思うかもしれません。

 しかし、最高裁は、

「被害者の過失には、被害者本人と身分上、生活関係上、一体をなすとみられるような関係にある者の過失、すなわちいわゆる被害者側の過失をも包含するものと解される」

として(最高裁昭和51年3月25日第一小法廷判決、民集30巻2号60頁)、夫に落ち度があり、妻が車に同乗していたケースで、奥さんに対する賠償額の減額を認めました。

 最高裁がこのように判断した理由は、以下のような点にあるものと考えられます。

 前提として、このようなケースで、奥さんに対する賠償額が減額されずとも、奥さんの損害は加害者と夫両方の過失によって生じたものといえるので、加害者は夫に対して奥さんに対する賠償額の一部を負担するよう求めることができます。

 したがって、このようなケースでは、奥さんに対する賠償額が減額されずとも、夫が加害者に対してお金を払わなければならず、夫婦全体で得られるお金は、奥さんに対する賠償額が減額されるケースと変わりはありません。そうであるならば、奥さんに対する賠償額の減額を認めた方が、紛争を1回の裁判で解決することができて、合理的です。最高裁の判断の裏には、このような考えがあるものと考えられます。

 個人的には、夫婦間であっても、奥さんが自己の名で得た財産は、奥さん単独の財産になる(民法762条)のだから、夫の落ち度で奥さんに対する賠償額を減額するのはどうなんだろう・・・とか思わなくもないですが。もっとも、上記判決でも、最高裁は「夫婦の婚姻関係が既に破綻にひんしているなど特段の事情のない限り」と付け加えているので、夫婦の関係次第では、別の判断が下されるかもしれませんね。