1 損益相殺とは
損益相殺とは、被害者が交通事故等の不法行為と同一の原因によって、利益を受けた場合に、当該利益の額を損害賠償額から控除することをいいます。その趣旨は、被害者が二重の利得をすることは公平の精神に反するという点にあると言われています。
損益相殺を行うためには、①被害者が得た利益が不法行為を原因として生じたものであること②その利益が損害と同質性を有すること、という要件が必要です。以下、①、②の要件ごとに検討を行ってみます。
2 要件①について
この要件は、言い換えれば、当該利益が交通事故と相当因果関係を有するかどうかということです。たとえば、生命保険金は、保険事故発生の際に、保険料支払いの対価として支払われるもので、交通事故と相当因果関係を有する利益とは言えません。したがって、これらの利益について損益相殺をできないと考えられています。
3 要件②について
たとえば、被害者が交通事故で死亡して損害賠償請求権が相続された場合、被害者が死亡した結果、支出を免れた生活費については、損害と同質性のある利益として損益相殺の対象となります。この場合、男子について逸失利益から50%程度、女子について30%程度を生活費として控除するのが実務です。
これに対して、年少者が死亡した場合に、働くことが可能な年齢に達するまでに要したであろう養育費については損益相殺の対象とならないと考えられています。所得喪失という逸失利益と養育費の節約との間には、同質性がないことがその理由です。