3 交通事故における訴訟という選択肢
交通事故の示談交渉を担当していると、被害者の方から相手保険会社がこちらの要求を飲まないならすぐに訴訟してくださいといったことを言われることがあります。
被害者のお気持ちとして、交通事故に遭った怒りや悲しみから感情的になられるのは十分理解できるのですが、訴訟をすればすべてうまく解決するわけではないのは、上記の訴訟のデメリットにも記載したとおりです。
特に、被害者の方は、③のデメリットについて十分理解されないまま訴訟という選択をしようと考えている場合が多いように思われます。
もちろん、被害者側が立証をしたい損害のすべてに手堅い証拠がそろっているのであれば、問題はありませんが、そのようなケースは稀であり、被害者側としても損害として主張するが、客観的な証拠には乏しいといったことは十分あり得ます。
例えば、家事従事者について、交通事故に伴ってどの程度家事に支障が出たかを客観的に明らかにするのは非常に困難です。
そのようなケースで訴訟における見通しの検討が不十分のまま訴訟提起をしてしまうと、被害者側の立証が不十分として被害者が請求した損害が訴訟において交通事故による損害として認定されない場合があります。
その結果、わざわざ訴訟までしたのに示談段階とさほど変わらない金額しか得られない、場合によっては示談より低い金額になってしまうということさえあり得るのです。
したがって、訴訟という選択肢を取る場合には、自らが立証しようと考える損害についてどの程度証拠が揃っているのか、相手方保険会社はどのような反論をしてくること予想されるかといった見通しを十分検討する必要があります。
そして、見通しを検討した結果、証拠がしっかりと揃っており、損害の立証のできる状況であるならば、訴訟のメリットを得るために訴訟提起をすることも選択肢に入れるべきかと思います。
特に、示談交渉段階で相手方保険会社と損害額の主張に大きな開きがあるようなケースでは示談での解決を図ることが困難ということもあり、訴訟の選択をするメリットが大きいといえます。
4 おわりに
訴訟という選択肢を取るか取らないかの検討にあたっては、法的な知識に基づいて、訴訟の見通しを立てることが必要になります。
訴訟の見通しは、当然のことながら、事故ごとに異なるものであり、被害者の方が自分自身で判断することは非常に難しいといえます。
相手方保険会社の主張に納得できず、訴訟提起を検討している方は、最終的に訴訟をするかしないかにかかわらず、一度弁護士に相談することをお勧めいたします。
また、事務的な面からいっても、訴訟は裁判所の都合で平日の日中に行われることから、仕事をしている方はわざわざ休みを取る必要があります。
弁護士に依頼をすれば、基本的には被害者の方は裁判所に行く必要はありませんので、その点からも弁護士への依頼をお勧めいたします。