1.はじめに

 皆様、こんにちは。
 今日も、前回のブログ(3月23日分の後遺障害が認定されたけど減収はありません①)の続きで、交通事故により傷害を負い、その後、後遺障害を認定された被害者の方が仕事に復帰し、事故に遭う前と比較して事故後の収入額が減少していない場合、あるいは収入額が増加している場合に、逸失利益がどのように認定されるのかを考えてみたいと思います。

2.昭和56年最高裁判決

 まず、逸失利益に関する著明な最高裁判決として、最高裁判決昭和56年12月22日(民集35巻9号1350頁)が挙げられます。
 この判決は、

「かりに交通事故の被害者が事故に起因する後遺症のために身体的機能の一部を喪失したこと自体を損害と観念することができるとしても、その後遺症の程度が比較的軽微であつて、しかも被害者が従事する職業の性質からみて現在又は将来における収入の減少も認められないという場合においては、特段の事情のない限り、労働能力の一部喪失を理由とする財産上の損害を認める余地はないというべきである。」

としています。

 この判決について、単に現実の減収がないことのみをもって逸失利益の発生を否定したものではなく、現実の減収がない場合であっても、当該後遺障害の部位・程度、当該被害者の職業等に照らして、労働能力の低下をもたらしていることが明らかな場合には、現実の減収がなくても、将来的には減収になる可能性があるため、逸失利益を肯定する余地があると考えられます。

3.減収がない場合に、逸失利益をどのように立証していくか

 では、現実の減収がない場合に、逸失利益をどのように立証していくかについて考えていきましょう。

 もちろん、それぞれの交通事故において事情は様々なのですが、被害者に残存した後遺障害の部位・程度等を診断書など客観的な資料に基づいて立証するとともに、被害者の職業の内容・性質、実状などをできるだけ具体的に立証して、後遺障害が被害者の労働能力を低下させていることを立証していくのが基本になると思います。

 そして、減収がない場合でも、被害者本人が特別の努力をしているなど事故以外の要因があり、その要因がなければ被害者の収入の減少を来している、と立証する(例えば、事故後には作業効率が低下したものの、残業によってカバーしているような場合には、事故前後のタイムカードなどを証拠として用意する、また、勤務先の配慮があって減収が生じていないのであれば、どのような配慮があるのか説明する)ことが考えられます。また、被害者が現に従事している職業の性質に照らして、昇給・昇進・転職等に際して不利益な取り扱いを受けるおそれがあると立証する(例えば、退職・転職の可能性を説明する)ことも考えられます。

 実際に、事故後、左手関節の機能障害(可動域制限)、顔面部の線状痕(長さ5cm)、右人差し指のしびれ、握力低下等の後遺障害(併合11級)が残存した事故当時37歳の男性公務員(バス運転手)について、事故前と同様の業務に復帰する等仕事への影響は一応現れていませんでしたが、長時間同じ姿勢で運転するという仕事内容からして、将来も同じように仕事をこなして昇給・昇進できるかはわからないこと、減収がないのは本人の特別な努力で仕事を維持していることなどから、現実の減収がない場合でも、労働能力喪失率を17%として逸失利益を肯定しました(横浜地裁判決平成22年8月5日)。

4.最後に

 逸失利益については、保険会社の提示額が十分ではないことが多く、後遺障害の部位・程度、被害者の方の仕事内容等に照らして、しっかりと主張立証を尽くせば増額となることも多いです。
 ご自身の賠償額が適切なのかご心配である場合には、弁護士に相談されることをおススメします。