今回は自賠責によって認定された後遺障害等級で認められる労働能力喪失率を認定し、高額な逸失利益を認めた裁判例をご紹介いたします。

1 逸失利益とは何か

 逸失利益とは、不法行為がなければ被害者が得たであろう経済的利益を失ったことによる損害をいいます。
 つまり、交通事故によって後遺障害が残存して将来の収入が低下し、経済的利益を失ったことによって生じる損害のことをいいます。

2 後遺障害逸失利益の算定方法

 「収入額(年収)× 労働能力喪失率 × 中間利息控除係数」です。

(1)収入額

 裁判例では、事故前の収入実態や学歴、事故後の収入状況等の多様な要素を加味した上で、様々な基礎年収の捉え方が認められます。
 今回のテーマとは異なるので多くは語りませんが、裁判例では現在の収入が低くても将来に起きうる様々な可能性を考慮して、賃金センサスの学歴別・年齢別・平均賃金の範囲で算定されるので、しっかり争う必要があります。

(2)中間利息控除

 年収200万円の症状固定時50歳の被害者が、後遺障害により14%の労働能力を喪失し、その状態が67歳まで17年間継続するとしても、逸失利益の総額が、

 200万円 × 0.14 × 17年 = 476万円

 となるかといえば、そうではありません。これは毎年200万円の逸失利益が17年間累積した結果ですが、これを症状固定時の一時金として評価しなおさなければなりません。そこで、実際の計算式は、

 200万円 × 0.14 × 11.2741(17年のライプニッツ係数)= 315万6748円

 となります。

(3)労働能力喪失率

 自賠責保険では後遺障害等級によって定められた労働能力喪失率を適用して損害額を積算します。
 具体的に言うと、1~3級(100%)、4級(92%)、5級(79%)、6級(67%)、7級(56%)、8級(45%)、9級(35%)、10級(27%)、11級(20%)、12級(14%)、13級(9%)、14級(5%)です。
 もっとも、職種、事故後の収入状況、障害内容等に照らして、労働能力喪失率を変化させて認定している裁判例もあります。
 今回はその裁判例について言及します。

3 裁判例(東京地裁平成19年5月28日判決)

(1)事案

 大学病院医局に所属する傍ら、難病治療センターの研究員でもある産婦人科医師(34)が頚部痛について、自賠責では14級10号の認定を受け、労災では12級相当という認定を受けましたが、裁判では、頸椎椎間板膨隆のため頚椎の可動域が2分の1以下に制限されたとして8級2号を主張しました。なお、被害者は労働能力喪失率について40%と主張しました。

(2)判旨

 8級2号の主張については、「背部軟部組織に明らかな器質的変化がある」とまではいえず、8級2号に該当しないとされました。

 しかし、産婦人科医という職業上、手術に従事することは避けられないが、被害者が下を向くのが厳しく、長時間手術をすると、手の痺れが出てくるということ等を原因として、頚椎の可動域制限が手術の遂行に影響を及ぼすと認定されました。

 もっとも、本件事故後、症状固定前においても、救急当直は本事故前とさほど変わりなく行っていたこと、学会での報告や研究発表も変わらず行っていたこと、昨今の産婦人科医の不足から、産婦人科医の需要は極めて大きいところ、本件事故後新たな勤務先で稼働しており、事故の年よりも収入が増加していること等から、被害者の後遺障害による労働能力喪失率は15%と認めるのが相当であると判断されました。

 結局、後遺障害逸失利益として、1585万9006円(事故があった年の年収)×0.15×16.0025=3806万7561円が認められました。

4 最後に

 裁判所は、上記裁判例のように、職種、事故後の収入状況、障害内容等に照らして、労働能力喪失率を変化させて認定することもあります。
 しかしこのような主張は高度に専門的なものになってきますので、このような問題を抱えておられる方も、弁護士法人ALGの弁護士にご相談下さい。