交通事故に逢われ、後遺障害が残った方は、保険会社が提案してくる「逸失利益」の欄に、「労働能力喪失期間X年 対応するライプニッツ係数○○○○」といった記載をご覧になったことがあると思います。今回は、この「ライプニッツ係数」が何なのか、説明したいと思います。
逸失利益等、将来の損害を請求する場合の計算についての考え方
交通事故等により後遺障害が残った場合に認められる逸失利益とは、「後遺症により労働能力が○%落ちた。だから、その分の減収が将来生じるはずだ、だからその減収分に相当する損害がある」という理屈により認められるものです。
減収は、就労可能年数、つまり、後遺症が残ってしまうことが確定した日から67歳までの期間の年数分認められます。
そうすると、基礎収入×労働能力喪失率%×就労可能年数に相当する逸失利益が認められるようにも思えます。
しかし、ここで金融的な考え方が入ってきます。つまり、「現在の○万円」と「X年後の○万円」の価値は異なる、という考え方です。「現在の○万円」をX年間運用すれば、○+(金利×○円×年数)万円に増えるはずだ、逆に考えれば、 「X年後の○万円」の価値は、「現在の○万円」より価値が低い、という結論になります。
そのため、「X年後のY万円」を、「現在」受け取るためには、X年分、金利△%で運用したと仮定し、「引き直し計算」を行う必要になります。例えば、一般的に法定利率として用いられる金利年5%とした場合、この計算式は、次のとおりです。
ライプニッツ係数は、1年後からX年後まで、この計算式の和を取ったものです。
一見難しい式ですが、エクセルで比較的簡単に計算できます。
逸失利益や将来介護費などの請求を行う場合、通常ライプニッツ係数により計算した金額を一時金として賠償請求することになります。
ライプニッツ係数には、下記の問題点があります。
① 法定利率が市中金利に比較して高すぎるため、引き直しの程度が自分で資金を運用した場合と比べて大きくなってしまう。
② 後遺症の程度が重い事案で、将来の介護費用等を請求する際にライプニッツ係数により引き直し計算が行われる。将来の介護費用等について一時金賠償を行う場合、実際に必要となる資金よりも少ない金額しか受け取れないので、被害者が損をしてしまう。
上記②の問題点を解消するために、一括して将来の介護費用を受け取る一時金賠償を求めるのではなく、毎年○万円支払え、といった定期金賠償を求める方法もあります。
逸失利益については一時金賠償が普通だからと、将来実際に必要となる介護費用等についてまで一時金賠償を行ってしまうと、思わぬ損をすることがあります。賠償金がどのような目的に使われるのか十分検討し、実際に多額の支出が見込まれる費目については、定期金賠償を行うことも一考です。