1.はじめに
こんにちは、弁護士の辻です。
交通事故についての損害賠償に関して必須といってよい本があります。
それは民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準、いわゆる赤い本です。
赤い本は、毎年改訂されますが、平成28年度版では、慰謝料基準について改定がありましたので、ご紹介したいと思います。
2.死亡慰謝料基準について
従前の基準は「一家の支柱2800万円、母親、配偶者2400万円、その他2000万円~2200万円」というものでした。
これが、平成28年版赤い本では、「一家の支柱2800万円、母親、配偶者2500万円、その他2000万円~2500万円」と改定されました。
平成28年版赤い本下巻によると、「その他」が改定された経緯は、裁判例の調査結果、「その他」のうち、子供を中心とした若年の単身者については、全国的な裁判例の水準が2200万円から2500万円の間にあり、「その他」が基準としての意味を失っていることから、「その他」の基準の上の額を引き上げることとしたとされています。
「母親、配偶者」が改定された経緯についても、裁判例の多くが2400万円~2500万円の水準とあったことから基準をあげて2500万円としたとされています。
3.傷害慰謝料基準について
(1) 別表Ⅰについて
従前の基準は、「傷害慰謝料については、原則として入通院期間を基礎として別表Ⅰを使用する。通院が長期にわたり、かつ不規則である場合は実日数の3.5倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とすることがある。」というものでした。
これが、平成28年版赤い本では、第2文が、「通院が長期にわたる場合は、症状、治療内容、通院頻度を踏まえ実通院日数の3.5倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とすることもある。」とされました。
平成28年版赤い本下巻によると、従来の基準では、「不規則」という文言がありましたが、あまり意味がない文言であるため削除し、「症状、治療内容、通院頻度」という傷害慰謝料算定の本論に立ち返る文言に変更したとされています。
また、「目安とすること「も」ある。」とされたのは、原則は通院期間を基礎とするのであって、実日数の3.5倍の期間を基礎とすることは例外的であることを示すために追加したとされています。
(2) 別表Ⅱについて
従前の基準は、「むち打ち症で他覚所見がない場合は別表Ⅱを使用する。この場合、慰謝料算定のための通院期間は、その期間を限度として、実治療日数の3倍程度を目安とする。」というものでした。
これが、平成28年版赤い本では、「むち打ち症で他覚所見がない場合等は入通院期間を基礎として別表Ⅱを使用する。通院が長期にわたる場合は、症状、治療内容、通院頻度を踏まえ時痛通院日数の3倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とすることもある。」と改定されました。
平成28年版赤い本下巻によれば、むち打ち症で他覚的所見がない場合等でも、裁判例の実態として、通院期間が短期であれば、別表Ⅱに基づいて通院期間を実通院日数の3倍程度として算定した額よりも高い金額を認定する傾向があるとされ、従前の基準では裁判の実態を反映できていないことから、別表Ⅰの場合と同様に、原則は通院期間を基礎として慰謝料算定するとの基準に改定されました。
また、別表Ⅱを使用する場合について「むち打ち症で他覚所見がない場合「等」」と改定されました。これは、従来から軽度の打撲、挫創(傷)については別表Ⅱが使用されているとの意見があり、これを明確化するために追加したとされています。
4.おわりに
慰謝料は、赤い本などの基準を基礎として算定されるため、赤い本の慰謝料基準が改定されたことは実務に大いに影響を与えます。
今回の改定も増額方向ですので、被害者の方には有利なものといってよいでしょう。