1.はじめに

 こんにちは、弁護士の辻です。
 よく、物的損害に対する慰謝料は認められないというような話を聞きます。
 このように言われるのは、物損事故における損害については、修理費用等の財産的損害が填補されることによって損害の回復が果たされるのが通常であることが理由だと考えられます(大阪地判平成12年10月12日自保ジャ1406号4頁)。
 ただ、物的損害について、修理費用等の財産的損害が填補されても、損害の回復が果たされない場合には、その損害の回復のための賠償、いわゆる慰謝料が認められる余地はあります。

2.物的損害で、慰謝料が認められた裁判例

ア.墓石 

 墓石等の上にレンタカーが乗り上げ、墓石が倒壊し、埋設されていた骨壺が露出した事故について、

「一般に、墓地、墓石等は、先祖や故人が眠る場所として、通常その所有者にとって、強い敬愛追慕の念を抱く対象となるものということができるから、侵害された物及び場所のそのような特殊性に鑑みれば」、これを侵害されたことによって被った精神的苦痛に対する慰謝料も損害賠償の対象となる

 とした裁判例(大阪地判平成12年10月12日自保ジャ1406号4頁)があります。
 この事案では、慰謝料20万円の請求に対し、10万円が認定されました。

イ.家屋

 加害者運転の普通乗用自動車が、他の自動車を回避しようとしてハンドルをきったところ、被害者X1が所有する建物の玄関前にいた被害者X2を跳ね、玄関を損壊した事故について、

「加害者との損害賠償交渉が難航したことも相まって、被害者X1らは、年末年始を含む1か月以上にわたって、表玄関にベニヤ板を打ち付けた状態で過ごすことを余儀なくされ、それによって、生活上及び家業上の不便を被ったことが認められ、これらによる精神的苦痛に対する慰謝料としては、20万円が相当である」

 とした裁判例(大阪地判平成15年7月30日交民集36巻4号1008頁)があります。
 この事案では、慰謝料100万円の請求に対し、20万円が認定されました。

ウ.ペット

 大型貨物自動車に追突されたため、車に同乗させていた犬が、第2腰椎圧迫骨折の傷害をうけ、後に後肢麻痺が残存した事故で、

「近時,犬などの愛玩動物は,飼い主との間の交流を通じて,家族の一員であるかのように,飼い主にとってかけがえのない存在になっていることが少なくないし,このような事態は,広く世上に知られているところでもある」

 とし、

「そのような動物が不法行為により重い傷害を負ったことにより,死亡した場合に近い精神的苦痛を飼い主が受けたときには,飼い主のかかる精神的苦痛は,主観的な感情にとどまらず,社会通念上,合理的な一般人の被る精神的な損害であるということができ,また,このような場合には,財産的損害の賠償によっては慰謝されることのできない精神的苦痛があるものと見るべきである」

 とした裁判例があります(名古屋高判平成20年9月30日交民41巻5号1186号等)。
 この事案では、飼い主二人が、慰謝料各20万円を請求し、各18万円が認定されました。

3.車が壊れた場合の慰謝料は・・・?

 以上の裁判例からも明らかなとおり、物的損害という一事をもって、必ず慰謝料請求が否定されているわけではありません。

 しかし、車に関する慰謝料は、メルセデスベンツが損害を受けた事故について、

「通常は、被害者が財産的損害の填補を受けることによって、財産権侵害に伴う精神的損害も同時に填補されるものといえるのであって、財産的権利を侵害された場合に慰藉料を請求しうるには、目的物が被害者にとって特別の愛着をいだかせるようなものである場合や、加害行為が害意を伴うなど相手方に精神的打撃を与えるような仕方でなされた場合など、被害者の愛情利益や精神的平穏を強く害するような特段の事情が存することが必要である」

 とし、本件で特段の事情は認められないとした裁判例など(東京地判平成元年3月24日交民集22巻2号420頁など)があり、慰謝料は否定されています。

 このような裁判例の傾向からすると、車に関する物的損害については、慰謝料は認められないものと考えておく方が無難だと思われます。