1.高次脳機能障害の認定上のポイント

 高次脳機能障害の認定を受けるためには、①事故直後の意識障害や②脳の損傷の存在を立証するための客観的資料を残す必要があります。

 本日は、高次脳機能障害の認定を受けるために必要な資料を適切に残すために気を付けるべきポイントについて解説します。

2.意識障害に関する記録について

 当初の意識障害が一過性のものである場合には、医師に症状を申告していなかったために医療記録が残っていないことがあります。

 特に、被害者が年少者等であり症状を十分に説明することが困難な場合には、きちんと意識障害の存在が記録化されるように家族が適切に申告すべきです。

3.脳損傷に関する記録について

(1)撮影時期について

 脳損傷を疑わせる所見の一つである脳室拡大は事故後約3か月で完成するとされているため、事故直後(脳の膨隆が落ち着いてからもの)から数か月後の画像を比較できるように適時に検査を行うべきです。

(2)測定機器の性能について

 最近の医療現場では、頭部打撲の疑いがある場合にはX線だけではなくCTやMRIによる検査が行われることが多くなってきております。

 ところが、測定機器の解析能力が十分でないために脳損傷が発見できない場合があり、実際に最新の測定機器により初診時には見逃されていた脳損傷が発見された事例もあります。

 したがって、高次脳機能障害の可能性がある場合には、可能な限り最新の測定機器による検査を受けるべきです。

(3)症状の進行について

 脳損傷には事故から時間が経ってから発症するタイプのものもありますし、脳の損傷状態が悪化する場合もあります。したがって、事故から時間が経っていても脳損傷の疑いがある場合には十分に検査を行うべきです。

(4)PETやSPECTについて

 最近ではPETやSPECTという方法により脳機能の異常を検査することがあります。

 自賠責保険の実務ではPETやSPECTの検査結果だけで脳損傷の存在を認定することはないようですが、裁判実務ではPETやSPECTの画像により脳の器質性損傷を推測して高次脳機能障害を認定した例もあります。

 したがって、PETやSPECTの検査結果だけで高次脳機能障害が認められる可能性は高いとは言えませんが、可能な限り検査をしておくべきです。

4.自覚症状のない症状について

 被害者自身には高次脳機能障害の症状が自覚できない場合があるため、周囲の家族が異常を感じた場合には適宜医師に報告をするべきです。

5.医療記録の保存について

 高次脳機能障害の場合には症状の増悪が判明するまでに長い期間が経過することがあり、このような場合には医療記録が保存期間満了により廃棄されていることがあります。

 医療記録の破棄を少しでも防止するためには、症状固定後も最低でも5年に1回程度の頻度で医療機関の診断を受けておくことが考えられます。

6.まとめ

 上記のように高次脳機能障害については他の受傷よりも認定上の難しさが存在するため、受傷後すぐに専門性の高い弁護士に相談しつつ、治療を行って頂くべきだと存じます。