1 はじめに

 前回は、慰謝料に影響を与える事情として、加害者側の悪質性などをご紹介しました。
 (前回の記事はこちら:慰謝料への影響【加害者編】

 今回は、被害者側の事情で、慰謝料額に影響を与える事情をご紹介したいと思います。

2 慰謝料へ影響を与える被害者側の事情

(1) 被害者に落ち度がないこと

 被害者に何の落ち度もないことを指摘して、慰謝料額を認定した裁判例がいくつかあります(大阪地判平成17年6月27日等)。 ただ、その場合、被害者に落ち度がなかったことのみを指摘しているのではなく、加害者側に悪質な運転行為や重大な過失が認められることも併せて指摘されています。 そのため、被害者に落ち度がないことは、加害者側に悪質な事情があることなどと併せて慰謝料額に影響を与える事情と考えられています。

(2) 被害者が若年者であること

 被害者が若年であり、かつ、死亡したような場合には、親族の喪失感や精神的衝撃が非常に大きいと言えます。 死亡事案などでは、親族に対しても、固有の慰謝料(いわゆる近親者慰謝料)が認められるため、これを被害者自身の死亡慰謝料と併せると、総額として高額な慰謝料が認められている裁判例が多いです(横浜地判平成23年10月18日等)。
 そのため、被害者が若年者であることは、慰謝料額に影響を与える事情と考えらえています。

(3) 家族関係上の特殊事情

 事故から2か月後に予定されていた息子の結婚式に被害者の出席がかなわなかったこと、被害者の息子において事後対応のために退職と減収を余儀なくされたこと、被害者本人も妻との老後の生活を楽しみにしていたことなどから、被害者の無念、遺族らの悲痛も大きいといわざるを得ないとして、被害者本人の慰謝料と親族に対する固有の慰謝料を認定した裁判例があります(神戸地判平成21年10月14日)。

 このような一般化することは難しい、その家族特有の事情であっても、裁判所が一般的な慰謝料では評価しきれないと認定した場合には、慰謝料額に影響を与える事情となると考えられています。

(4) 後遺障害により仕事が事実上不可能となったこと等

 海外プロサッカーチームの選手として活躍した経歴を有し、Jリーグチームへの入団を希望して来日していた男性が、事故によって事実上プロサッカー選手としての選手生命を絶たれたことが考慮されて慰謝料を認定した裁判例があります(東京地判平成16年2月27日)。

 他にも、40歳を過ぎながらも一念発起して将来音楽で生計を立てることを目指し、アルバイトに従事しながらベース奏者に師事し、練習に励んでいた50歳の男性が、事故により右手指全部を駆使した楽器の演奏に支障をきたしたという事情が考慮された裁判例もあります(東京地判平成16年12月1日)。

 そのため、後遺障害により仕事が事実上不可能になったことは、慰謝料の額に影響を与える事情となると考えられています(特に、特別な技能等が必要とされる職業の場合にはその傾向が強いです。)。

3 おわりに

 以上の様に、被害者側に特に酌むべき事情があり、被害者らに、一般的な慰謝料では評価しきれないほどの精神的苦痛が生じたと裁判所が評価した場合には、慰謝料の額に影響することがあります。