交通事故により後遺症が残ってしまい、普段の生活を送る上で補助器具が欠かせなくなった場合、補助器具の購入費用、特に将来買い替える場合の費用まで請求することはできるのでしょうか。例えば、交通事故で脊髄損傷を負い、下半身麻痺になってしまい、車いすの購入費用を請求するような場合です。
例であげました車いすは数万円から何十万円もするものまであり、数十万円もする車いすを数年ごとに買い替えるのは負担ですし、車いすは、下半身麻痺になってしまった方が普段生活する上で欠かせないものですから、既に購入しているものだけでなく、当然、将来買い替える費用も加害者に対して請求することができます。
ただし、すでに購入した分は、その購入金額をそのまま損害として請求することができますが、将来の購入費用は、補助器具そのままの値段を買換え回数分請求できる訳ではなく、実務上、計算方法があるので注意が必要です。
この様な場合、補助器具の耐用年数(買換え年数)に応じて、平均余命までの買換え回数ごとの現価を計算して将来の購入費用を算定します…と書いてもよく分かりませんので、具体例を挙げて説明します。
上の例で挙げた脊髄損傷で下半身麻痺の後遺症が残ってしまって人の症状固定時の年齢が37歳で、車いすの価格が30万円、耐用年数(買換え年数)を5年とします(すでに1台購入済み)。この場合、以下のような計算式になります。
30万 + 30万 × (0.7835+0.6139+0.4810+0.3768+0.2953+0.2313+0.1812+0.1420)
=1,231,500円
まず、「30万」は車いすの購入費用で、すでに1台購入しているので、購入金額の30万円を1回足します。次に、計算式のカッコの中の数字は、平均余命までの耐用年数(買換え年数)に対応するライプニッツ係数です。この点についてもう少し説明をすると、人はいつか亡くなりますので永遠に買換えが必要になることはありませんが、被害者の方がいつ亡くなるかは分からないので、症状固定時の年齢を基準に生命表というものを使って平均余命を出して、その平均余命を購入が必要な期間とします。(上記の例でいえば、症状固定時37歳の平均余命は約42歳になります。)。
もっとも、平均余命まで認められる買換え回数をそのままかけてしまうと、金額が大きくなってしまいますし、利息を考えれば被害者が不当に利得を得ることになってしまうので、利息分を控除する必要があります。その利息分を控除するための係数が耐用年数(買換え年数)に対応するライプニッツ係数です。上の計算式でいえば、カッコの中の数字は、平均余命42歳までの耐用年数(買換え年数)5年、10年、15年、20年、25年、30年、35年、40年に対応するライプニッツ係数になります。
そして、車いすの購入金額である30万円にそれぞれの耐用年数(買換え年数)に対応するライプニッツ係数をかけて、それをすべて合計した123万1500円が将来の車いすの購入費用ということになり、これを加害者に対して請求できることになります。
弁護士 竹若暢彦