1.通院交通費についても交通事故の損害の範囲に含まれます。

 問題は、損害の範囲に含まれる通院交通費の中身です。

 赤い本の基準によると、病状などによりタクシー利用が相当とされる場合以外は、電車、バス等の公共交通機関、車を利用した場合は実費相当額が損害の範囲として認められています。

 病状などによりタクシー利用が相当とされる場合とは、自宅から公共交通機関まで1時間かかる等長時間の徒歩を要する場合や右大腿骨骨折、右脛骨高原骨折等の傷害を受けた場合(事故時44歳、症状固定時50歳)等です。

2.では、被害者の近親者の交通費が損害の範囲に含まれる場合があるでしょうか。

(1)事案

 被害者の娘がウイーンに留学すべく、横浜からナホトカ経由で出発したところ、途中モスクワに到着した際、被害者の事故の通知を受けたため、急きょ帰国し、被害者の付添い看護に当たった後、改めてウイーンにおもむきました。

(2)この事案につき、判例(最判昭49.4.25)は、

「おもうに、交通事故等の不法行為によって被害者が重傷を負ったため、被害者の現在地から遠隔の地に居住又は滞在している被害者の近親者が、被害者の看護等のために被害者の許に赴くことを余儀なくされ、それに要する旅費を出捐した場合、当該近親者において看護等のため被害者の許に赴くことが、被害者の傷害の程度、当該近親者が看護に当たることの必要性等の諸般の事情からみて社会通念上相当であり、被害者が近親者に対し右旅費を返還又は償還すべきものと認められるときには、右旅費は、近親者が被害者の許に往復するために通常利用される交通機関の普通運賃の限度内においては、当該不法行為により通常生ずべき損害に該当するものと解すべきである。そして、国際交流が発達した今日、家族の一員が外国に赴いていることはしばしば見られる事態であり、また、日本にいるその家族の他の構成員が傷病のため看護を要する状態となった場合、外国に滞在する者が、右の者の看護等のために一時帰国し、再び外国に赴くことも容易であるといえるから、前示の解釈は、被害者の近親者が外国に居住又は滞在している場合であっても妥当するものというべきである。」

 として、横浜からナホトカ経由ウイーンまでの旅費13万円2244円と帰国のために要したモスクワからナホトカ経由横浜までの旅費8万4034円を被害者本人の損害と認めました。

(3)この判例は、近親者による被害者の付添い看護の必要性等を考慮して、近親者の交通費を損害の範囲として認めたことに一定の意義があると思います。ただ、被害者の負った傷害が軽傷であって付添看護の必要性がない場合にまで、この判例の射程が及ぶとはいえない可能性があるので、注意が必要でしょう。

弁護士 大河内由紀