1 中小企業の後継者不在
ご承知のように、日本においては、少子高齢化が進み、就業人口(20歳~64歳)も減少の一途を辿っています。団塊の世代(1947年~1949年生まれ)が66歳を超え、実に66%の中小企業は後継者がいないと言われています。
そのような状況の中、後継者不在の中小企業がM&Aにより第三者へ事業承継をする手法が昨今注目されておりますので、今回はM&Aによる事業承継のメリットについてご説明致します。なお、M&Aには様々な形態がありますが、中小企業の事業承継では、ほとんどが株式譲渡の形態をとりますので、以下では、株式譲渡を前提にします。
2 株主(創業者)のメリット
(1)創業者利潤
株主たる創業者は、株式譲渡を行うことによって、買収先からその対価が支払われますので、創業者利潤を得ることができます。
これに対し、後継者不在との理由から廃業して、会社を清算した場合でも、一定の金銭が生じることはあり得ますが、法人税や所得税の課税がなされる場合があるほか、会社の営業権(のれん、ブランド)の価値が考慮されませんので、大抵の場合、株式譲渡の場合よりも低額な利潤にとどまると思われます。
(2)時間の獲得
多くの中小企業の経営者の方は、プライベートな時間を削り、会社の経営に心血を注いでこられたかと思いますが、経営権を移転させることにより、その経営者の重責から解放され、自由な時間を確保することができます。
3 従業員のメリット
会社が廃業してしまった場合、そこに勤めていた従業員は当然働けなくなりますので、失業してしまうことになります。しかし、中小企業のM&Aにおいては、株式譲渡後も従業員の雇用条件を守ることを契約してなされることがほとんどであり(むしろ買い手企業が売り手企業従業員の継続勤務を期待していることがほとんどです)、従業員にとっても自身の雇用が守られるというメリットがあります。
4 取引先のメリット
廃業してしまった場合、その取引先企業としては、取引先を一つ失うわけですが、これもM&Aにより企業が存続した場合には、取引先を失わずに済むというメリットがあります。むしろ、買収先は資本力・営業力等に優れた大企業であることも多く、その傘下に入ったということであれば、後継者不在に悩んでいた頃よりもはるかに対外的信用は増しますので、むしろ、取引先との関係強化が期待できます。
5 まとめ
以上のように、中小企業の事業承継においてM&Aを活用するメリットは多岐にわたりますので、後継者不在で悩まれる経営者の方々はM&Aによる事業承継をご検討されるとよいかと思います。
M&Aを実行する過程では、通常、M&A仲介業者とのアドバイザリー契約、買収監査(デュ―デリジェンス)、株式譲渡契約書の締結等の法律問題も多々生じますので、一度弁護士へご相談下さい。
弁護士 森 惇一