第1 前回の記事の概要

 前回の記事では、中小企業の経営者が後継者に経営権を承継させる手段のうち、売買や生前贈与等、経営者の生前に自社株を承継させる方法(「生前実現型」)についてご紹介しました。そして、その中でも、生前贈与による方法が、税制上も優遇されていて、後継者の経済的負担が最も軽い方法でした。
 ただ、この方法の場合も、相続人からの遺留分減殺請求への対策をしないまま贈与してしまうと、遺留分減殺請求により自社株が分散してしまうおそれがあります。今回は、その対策方法について説明します。

第2 事業承継における遺留分の問題点

 まず、相続人からの遺留分減殺請求への対策をとらないまま、自社株を後継者へ贈与すると、どうなってしまうのかという点について事例を用いて説明します。

(例)X社の経営者甲は、後継者である長男Aに対して自社株を生前贈与し、経営者を交代した。その時点での自社株の価額は3000万円であった。
10年後、先代経営者甲は死亡したが、X社の会社価値(自社株価額)は、後継者Aの経営手腕により、甲引退時の4倍(1億2000万円)に増大していた。この他、甲は、3000万円相当の土地を有していた。なお、甲には、長男Aの他、長女Bと次男Cがおり、妻はすでに他界している。

 この事例の場合、遺留分の算定基礎財産は、甲が死亡時に有していた土地(3000万円)に、甲が長男Aに対して贈与したX社株(1億2000万円)を加えた、計1億5000万円となります(民法1029条参照)。そうすると、B、Cの遺留分は各2500万円(1億5000万円÷2÷3)となってしまうので、仮に、3000万円相当の土地をB、Cが取得したとしても、Aが贈与を受けたX社株のうち2000万円相当が遺留分減殺の対象となるため、結局AがX社株すべてを単独で確保するには、B、Cに対して2000万円の代償が必要となります。

 これに対して、先の例で、経営権がAに移った後も、X社の会社価値(自社株)が3000万円のまま据え置きだった場合、遺留分の算定基礎財産は、甲が死亡時に有していた土地(3000万円)に、甲が長男Aに対して贈与したX社株(3000万円)を加えた、計6000万円となりますので、B、Cの遺留分は、各1000万円(6000万円÷2÷3)となります。そうすると、B、Cは3000万円相当の土地の一部を取得すれば足りるので、Aは贈与を受けたX社株すべてを代償なく確保することができることになります。

 結局、この2つの例を比較すると、後継者Aが、経営権を承継した後にたとえその経営手腕を発揮して、X社の価値を高めたとしても、その上昇に伴い、他の相続人BやCの遺留分まで増大させてしまう結果になってしまうのです。そのため、後継者以外の相続人からの遺留分減殺請求に対して何らも手当をしないでいると、後継者Aの経営意欲を阻害してしまうという大きな問題が発生するのです。

第3 経営承継円滑化法

 以上のような問題点を解消するために制定させたのが、遺留分に関する民法の特例、いわゆる経営承継円滑化法です。
 この法律は、先代経営者の推定相続人全員が、①対象自社株を遺留分算定の基礎財産に算入しない旨の合意(除外合意)をした場合に、対象自社株を遺留分減殺請求の対象から外すこと、及び、②対象自社株の遺留分算定の基礎財産への算入価額を合意時の価額とする旨の合意(固定合意)をした場合、その後、先の例のように、自社株の価値が上昇しようとも、合意した価額を遺留分算定の基礎とすることができる、という特徴をもった法律です。

 これを先の例にあてはめると、①の場合、X社株はそもそも遺留分の対象とならず、また、②の場合、たとえ、X社株の価値が3000万円から1億2000万円に上昇していたとしても、X社株の価額は3000万円として遺留分が計算されることになるので、後継者Aの経営意欲を阻害することなく、Aに経営権を承継できることになります。

第4 まとめ

 以上、ざっと経営承継円滑化法のポイントを解説しましたが、書面を作成する必要がある等、実際には手続上難しい面もあります。
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