1 はじめに

 私は、弁護士ですので、当然裁判所に頻繁に出廷するのですが、その際に、中小企業の社長さんと思われる方が、弁護士をつけずに被告本人として裁判に参加している光景をよく目にします。大抵のケースが資金繰りに困っていて、債権者たる原告に厳しく追及されている状況なのですが、その社長と思われる被告は比較的高齢の方が多いように感じます。もう少し早く若い後継者に事業を譲っていればこんな目に遭わなくて済んだだろうになあと思わずにはいられません。

 そこで、今回から、企業の相続である事業承継を円滑にするポイント・方法について複数回にわたってお話したいと思います。そして、中小企業の多くが同族企業ですので、多くの経営者はまず親族内承継を考えることと思います。そこで、今回は、特に親族内承継のポイントについて解説いたします。

2 親族内承継の方法

 親族内承継の最大の課題は、いかにして後継者に経営権を承継させるかです。承継する方法としては、大きく分けて、①自社株を承継させる方法と②会社法制の活用により議決権を集中させる方法の2つがあります。

3 ①自社株を承継させる方法について

(1)中小企業の場合、自社株は経営者個人の資産であることがほとんどですので、承継方法としては、売買・贈与・遺言・遺産分割の方法によることになります。もっと細かく分類すれば、売買・生前贈与は先代経営者の生前に準備・実現する「生前実現型」、遺言・死因贈与は生前に準備・死後に実現する「生前準備型」、遺産分割は生前に準備がなく死後に実現することから、「死後型」と分類することができます。

(2)まず、親族内承継で最も避けなければならないのは、遺産分割による「死後型」です。要は、先代経営者の生前に何も対策をとっていなかった場合どうなるかということです。今現在何ら対策をとっていない経営者の方も多いかと思いますので、その危険性を少し詳しくお話したいと思います。
 「死後型」の場合、相続人間で、原則として法定相続分を基準とする遺産分割がなされるため、そもそも自社株を後継者に集中できないおそれがあります。また、遺産分割は、相続人による協議がなされ、調停・審判まで発展しうるものなので、時間がかかります。したがって、承継の円滑性・迅速性の観点からも問題があります。その他、遺産の範囲についても紛争が起こりがちです。

 さらに、特に注意を要する問題点として、相続発生後遺産分割終了までの間、先代の経営者が有していた自社株は相続人の共有になってしまうことが挙げられます。たとえば、自社株が600株あったとして、それを相続人A・B・Cの三名が相続した場合、A・B・Cが各200株ずつ相続するわけではなく、1株を三分の一ずつの割合で3人が共有したものを各々が600株所有することになるので、全600株が3人の共有となります。共有株式の行使者はその持分の過半数で決するとするのが判例ですので、この場合、仮にAが経営権を引き継がせたい後継者だとしても、BとCが共同してAに反対した場合には、600株全ての分の議決権をBとCに行使される結果となるため、少なくとも遺産分割終了までの間、BとCに経営権を掌握されることとなり、後継者が経営権を失う事態が起こり得るのです。

 もう一つ注意を要するのが、経営者貸付金も相続されてしまう点です。中小企業の場合、経営者個人がその経営する会社に対して、事業資金として貸付を行っていることがよくあります。遺産が金銭債権の場合、遺産分割を経ることなく、法定相続分に応じて当然に分割されるとするのが判例であるため、たとえば、先代の経営者甲が自身の経営する会社Yに3000万円をあるとき払いの催促なしで貸し付けていたとしても、後継者以外の相続人B・Cは、各1000万円ずつを相続したとしてY社に請求することができるようになるため、実質的に返済する必要がなかった資金を返済する必要がでてくるため、Y社が資金繰りに窮する事態が起こり得るのです。

(3)長くなりましたが、親族内承継について何も対策せずにいた場合の危険性についてご理解頂けたでしょうか。このような事態を回避するためには「生前実現型」や「生前準備型」の手法をとることが考えられますが、それにもメリット・デメリットがありますので、次回以降に詳しくお話ししたいと思います。

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弁護士 森 惇一